
ある朝バスに乗ろうと思ったら、バス停には中学生の野球チームがごっちゃりと並んでいた。大きな荷物を抱えているから座りたかったけど、これじゃ無理だろう。うるさそうだし…朝から嫌なものに当たってしまった。
野球少年達の後からバスに乗り込んだら、案の定既に満席。仕方なく座っている野球少年の前に立ったのだけど、よく見たらそこは優先席だった。座っている本人もなんだか不安げにあたりを見回している。乗り込んだときは空いていたから軽い気持ちで座ったのだろうが、既に車内はかなり混雑しており、後からお年寄りも乗ってきている。
この状況下でどう考えても自分が「優先」されるべき存在でないことに気づいた野球少年は席を立とうとしたが、時既に遅し。車内には今更少年が立つすき間もないし、立ったとしてもお年寄りがここまで移動してくるのは不可能だ。仲間はみんな離れたところにおり、気まずさを共有することもできない。これは面白いことになってきた。
追い込まれた彼はおもむろに体を思いっきり伸ばしてつり革をつかみ、ぶら下がるようにしておしりを座席から浮かした。「座ってません!」と言いたいらしい。開き直って座り続けるには繊細すぎる思春期の自意識は、男子小中学生にありがちな何かが足りない思考回路を通った結果、こういう行動となって現れたようだ。……うーんバカ。
彼はしばらく頑張ってつり革にぶらさがっていたが、さすがに無意味だと気づいたのか腕が疲れたのか数分でやめてしまい、今度は唐突に狸寝入りを始めると、目的地にバスが着くまで動かなかった。数十分の出来事だったが、彼には永遠にも感じられたことだろう。
ちょっとバカだけど、気まずさを感じて何とかしようと努力できる彼はなかなかいいやつなんじゃないかと思う。お陰で、憂鬱だった朝が一気に楽しくなりました。その無駄な繊細さ、うちの「ザ・雑」な猫にも分けてやりたいものです。
2008年6月19日号掲載 ▲