当然の事だが、まず無銭鑑賞をしない事が大切だ。

一瞬、タダそうに思える試写会、招待券でもゲットするためにハガキ代は払っている。それでもどうしても無銭鑑賞体験をしたい方は、充分に検討したのち、失敗しないよう映画館に足をふみいれよう。

どういう理由(*1)による鑑賞か、を考えてみたい。親にせがまれて仕方なく付き合う。子供、を無理に誘って行く。映画でも見ないと夫(妻)との会話が皆無なので何となく夫婦50割引で行く。生まれて初めての本気恋モードで隣に座れる歓喜を逞しく想像し、大嫌いな監督だが物語まで予習し、映画はどうでも良いワクワク気分でデートとして行く。真昼間、安い料金で暗闇でとにかく眠りたい。大画面を見ながら食事をしたい。映画鑑賞の理由は多々あるだろう。よく「映画が好きだから」と軽く言う人も多いが、果たして真実好きなのだろうか? 単に気軽な暇つぶしの方もいるだろう。日本は映画が高いので、そうそう暇つぶしでは見ないだろうが、それでも演劇、コンサートなどに比べると安いので、暇で見ることも案外多いかもしれない。何と言っても演劇などより指定時間、席の制限もほぼないし、その時々で自由に選択可能なところが良い。最近ではぴあで指定席もゲット可能になったが、暇つぶしでぴあ指定は利用しないだろうから、いつでも気軽な入れ替えのない館なら、10時間から12時間位も居座れる大空間でもある。多彩な「見る理由」はともかく、「ああ〜今日も確実に一人鑑賞」という方も存在する。私自身、大人気だった10代はともかく、以後映画はほぼ一人鑑賞だし、気ままなので一人鑑賞の方が好きだ。

料金(*2)について考えよう。正規の料金で、前売りで少し安く買う、チケットショップで 500円以下になってから買う、会員、株主、試写、招待券で見るなどいろいろある。小柄な方は見知らぬ人のコートの中に隠れて見る、バーホーベン監督の次回作「透明鑑賞」に協力するつもりで、彼に透明になる方法を聞いて見るなどもある。

席の位置選択(*3)は人によりさまざまだろう。恋のお相手が一緒だと、本当はあそこに座りたいのに、となってしまう事も多いはずで、どんなに見にくく慣れない角度でも、じっと我慢の時だ。最前列の真ん中、最前列左右どこでも良い、最前列のさらに前の床の上、真中の真ん中、真ん中ならどこでも、最後列の真ん中や左右どこでも、席が空いていても最後列の後ろに密かに怪しげに立って見るなど、これも人それぞれだろう。占師のように右から4番、19番、端から延々と数えて351番など数字で位置決定している方もいるのだろうか? 痩せるために常に立って見る、場所を問わず若い男性(女性)の隣、喫煙場所、トイレに最短の席、という選択もあるはずだ。

ここで煙草(*4)について書く。私は吸わないが夫がヘビーなので、吸える映画館が減ってきていると嘆いているが、確かに全館禁煙が増えつつある。ロビーも禁煙となると映画を断念せざるをえない状態で、愛煙家には困った問題だと読んだ。まあ私には関係ないので夫の困惑を無視しよう。

また席の選択にもどり、音響が一番良さそうな席、その日のインスピレーションで決める、館によってだいたい位置を決めてある、間違ってもおしゃべりグループの近くには座らない、見下ろす方が目が疲れない人は高い位置を、シネスコなどは前の席より後の席、好みの男性(女性)だと感じたら即座に隣に座りたい、が、上映直前に恋人らしき女性が登場して動揺して映画の冒頭を見そこなったりしないか見極める事も肝心で、運良く好みの異性を発見しても判断は非常に難しい。

おしゃべり(*5)カップルとの遭遇でかつてない怒りの会話は、恵比寿で鑑賞した「ガタカ」でのできごと。あの静かな映画で「静かに!」と言えない距離で30代らしき男性が女性にコソコソ一体何を話していたのだろう? 持っていた飴を投げようとしたが、野球は下手なので諦め、暗闇で睨みながら移動鑑賞となった。何をコソコソと……遺伝子について得意げに……水泳の上手さを……僕も双子だったという嘘の生立ちを……ウマのように綺麗だよ……40年近い鑑賞歴で初めての記念すべき怒りの移動鑑賞体験だった。

これまた初体験だが、後半10分おきに9回位席を立った男性を発見。面白い娯楽映画だったのに何故だろう? 煙草、緊急携帯電話、急な下痢、探偵で調査中などさまざまな理由が浮かんだ。律儀にドアの近くではなく、ドアから少し離れた同じ席に座る行動。私は離れていたが、近くの方はさぞ気になったろう。異常者かもしれないので、上映後の突撃インタビューは控えた。SF恐怖作「未知鑑 賞者との遭遇」

若いカップルに多いが、上映中、コソコソと何回も耳元で囁く会話を経験した方は多いのではないか? 嫉みがあるのも素直に認めるが、映画関係者に、こういうカップル対策の提案がある。スクリーン後方に防音装置付きの個室を造り、映画を見ながら筋より会話を存分に楽しみたいカップルにBOX予約してもらう。BOXはスクリーンだけを見られ、他は見えない構造にする。カップルシートは古い、頭をジャンプさせよう! BOXは錠付きでイヤホーン鑑賞でもいい。他人からは見えないけれど、もしかしてどこかで見られているカップルとしての、スリルと興奮の映画鑑賞はいかがだろう? 他の長所もある。見ている映画に退屈したら、あの中で何をしているのかな?と想像力を逞しくし、例えば大喧嘩している、おにぎりやバナナを食べてるのかな…と思い巡らせば、高齢者は頭の回転が良くなり若返り作戦にもなるだろう。カップル使用者がいない時はキッズBOXにする、日本初のペット同伴映画館にする、従業員仮眠室や監視室、不倫室にするなどできる。実現を期待したい。ペットで見る推薦映画「ベートーベン+バッハ」

傾斜の少ない映画館で、私の隣の男性が前の席の方に「すみませんが、もう少しかがんでください」と丁寧に頼んだら、前の方は憤慨したようで映画館で決闘が!? フランスのシネマテークでは姿勢を低くするのがマナーのようで、さすが。大きい男性が前にいて、もっと低くと思った方も多いはず。女性が大男性に頼むのは怖い事で「映画館・バトルロアイヤル」に発展するかもしれない。背が普通でも座高の高い方には注意しよう。

食事(*6)について。ひそかに食べるのはまだしも、ガサゴソ音を何回もたてられると多少不快だが、長い時間でなければ許せる。神経質な方にはお食事バトルになるだろう。飲食禁止の館も多いが、迷惑かけずに食べ、ゴミを始末するなら食べて何が悪いのだろう? 最低マナーを守れない人が多いからかもしれないが、一食抜く推進運動のようで気に入らない。昔はどこでも食べられたのに……中には、初めから終りまでポップコーンを食べ続けている人もいて、静かな映画だと余計に落ち付かなくなる。食べ方にも問題があるのだ。上品に食べる方法を学んでから、ムシャムシャ食べ続けよう。迷惑防止の飲食法は? パン、おにぎりなどは前もって取り出しておき、音が出ないような上品な食べ方を家で訓練してから、実践して欲しいものだ。何でおにぎり1個でこうも音が出るのか!と思うほど下品な食べ方の人がいる。お食事マナーを映画館でも学べる良い機会だと思う。おにぎりのようにフィルムに包まれて音が出る物は、たとえゴミがついてもしまっても前もってはがしておくくらいの繊細な心が必要で、それを実践できる人が堂々と食べる権利を持つと考える。

映画館睡眠(*7)。私は目は太いが神経は細いので、映画館で寝たことはほぼなく、20分以上寝ることなど全くないが、お金を払ってでも睡眠を取りたい、寝たくて館に入るという人は映画ジャンルを選択しよう。間違っても前記した「ガタカ」のような静か系を選択して欲しくないが、神に誓ってイビキをかかないなら許そう。そうでない方は、映画の音がイビキに負けない映画を選択し、絶対寝ないと神に誓った上で、心おきなく熟睡(「爆睡」と表記するのが流行りよね)しよう。そうすれば、次に上映されるのが誰もが寝てしまいたい映画でも、決して眠らず珍しい映画鑑賞が体験できるはずだ。「ペイ・フォワード・睡眠版」善意の行為の実行を。

携帯電話(*8)バトルはよくあり、あれだけしつこく切るように表示されるのに、頭が悪いのか、上映中に携帯音が! 携帯マナーの悪さは映画館だけではないが、ジコチュー度にうんざりし、そんなに携帯使用したければ一日中家にいたら!と言いたくもなる。携帯オタクは思う存分、家で携帯を活用してほしい。

暗闇で集中して鑑賞する力は映画の面白さにかかわらず、年とともに確実に減っていくが、一番肝心な体の部位は目だと思う。目は良いほうだが、40代になったら年に一回は目の検査(*9)をしておく事も必要かという現実的視点も書いておこう。正しい映画鑑賞には目の検診を!

次は物理的状況でなく心理的状況を書いてみたい。どこに視点をおいてみるか? 当然、自由だ。若い頃はとにかく俳優(*10)重視の選択で、どんなに駄作でも好きな俳優を見たさにお小遣いを節約し、ビデオがない時代だったので何十回も足を運び、スクリーンから彼が飛び出して来てくれれば……私にキスを……話しかけてくれれば……とW・アレン映画を想ったりした純粋な日々だった。成長するにつれスター(古語)は恋人にはできないのだ、騙されたと気が付き、それまでの映画料金の損失を計算し、以降は無謀なスター選択鑑賞は避けるよう賢くなった。俳優は個人の好みにつきるだろうが、J・ロバーツに「エイリアン」は無理だろうし、T・ハンクスに「ロリータ」も同様だ。

見る映画の選択は監督、俳優、物語、原作、脚本、撮影〔映像〕、音楽、美術、衣装などだろう。

原作(*11)がある映画は、監督が原作にひかれて撮るのが普通だろうが、中には会社に無理強いされて、慰謝料を払うため、借金返済のため、好きな俳優が出るため、など複雑な事情もあるだろう。書物と違い映画製作は多数の事、人が関わっているから混戦もある。

撮影〔映像〕(*12)は重要だと思う。明暗、動静、薄い濃い、現実的、幻想的、ロング、ショートなど専門的に見れば多々あると思う。時には撮影だけに支えられているのではないかと思う映画もあり、監督はそこに居ただけで完成したのではないかという疑問もわき、映画界の裏の永遠なる神秘を感じるほどだ。天皇と呼ばれる監督も存在したが、監督が一番偉いのか? 製作か? 映画界の裏の秘密は果てしなく広がり、それは「秘密の製作」だ。

脚本(*13)もポイントで、今は脚本がないような映画も多いが好みではなく、音楽(*14)もすぐ耳に感じるものなので大きな存在だし、美術(*15)も目に直接入るので好みがわかれるところだろう。とくに日本映画で気になるが、映画が良くても、終わると同時に合わない知らない歌曲が鳴り出し、何で!と思う事がかなりある。スポンサーとして使用約束でもあるのだろうか? お聞きしたいこところだ。ラストの歌で台無しになる。

いろいろと正しい映画鑑賞について書いてきたが、私の20代にはなかったビデオからDVDの時代へ、さらにDVDを個人で作成できる時代まできた現在、お金を払ってみる以上、まず「寝ないで見る事(*16)」が大事だと思う。寝やすい方は熟睡後、目にメンタム(古語)を塗って行こう。CDやDVD、本は購入後すぐお店で寝ても、家で見られるから良いが、映画は「寝たので、もう一度見せて」とは言えない。

最後に 映画評(*17)について。

私も映画感想HPを開設しているが、そこにはネタバレも書いている。お金と時間がある人は何本でも見られるが、そうでない人は限られた中での選択だから、評は見る前にも読むし見る選択の参考にもする。予告にまで目をつぶるという人もいるが、何故だろう? たかが映画とも思っているし、大きなネタバレ以外は、知っていた方が楽しく鑑賞できることも多い。とくに歴史、政治系は事前のお勉強のつもりで大筋に目を通してから見た方が解かるはずだ。今はDVDがあるので知識なしで見ても気軽に再見できるが、昔は1回勝負だったから、なおさら予習する必要もあった。評を読み、左右されるような自分の感性なら、読んでも読まなくても同じだと思う。何かを読んでも私はこうだよと思えればいいのである。罵倒評だと逆に見たい気にもなり、絶賛だと見た気になり見ない時もある。

映画の本音評は雑誌よりHPなど個人の評にあると思う時代になった。誉めないと仕事がこなくなるフリーの人の評などはあまり信用しない。業界プレス試写も何回か経験したが、つまらない映画を終わった後、宣伝マンの方がニコニコしつつ、なかなかいいでしょうと、見た方に媚びている姿を見ると、映画業界の裏を改めて見てしまう。正しい映画鑑賞は、目の検査をして趣味で寝ないで見る事になるのかな……

100人のうち一人が好き! でもその逆もあるのが映画だ。監督が中心とはいえ複合製作だからこそ評も割れ、一人の作家が書く小説とは本質が違う。ほぼ同じスタッフで製作している映画は本と少しは近いと感じている。

プルースト「失われた時を求めて」の新訳を読破し、気力にも多少の自信を持てた01年から4年、失われていない記憶と感性と時を追い続けて、今日も正しい見方で映画を鑑賞し、映画鑑賞で現実逃避を楽しみたい50代の私がいる。

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2005年5月30日号掲載

 

   

映画館には様々な人間、様々な意志が存在する。まばゆいスクリーンに向かって暗闇に座るとき、人はそれら多様性との絶えざる“バトル”に突入するのだ。     

text/アリエル・人魚
p r o f i l e