あしたばしげる 青いまひる ふかい溝もつ 墨の夜に 星が落ちて とりが鳴く うそみたいなでっぱりが ところどころに 浮かんでる あれが島 あれは岩 これが石 それは砂 はりたおされる 遠近感 ぬるい風 ゆれる葉脈 名前もしらぬ ちいさな花 ひかりが降って ふららと横切るちいさなけもの キィィと鳴く 湿った髪 乾いた背骨 交互に吹いて あれは船 あれは海 あれは人 はだしになると 水が跳ね 足の裏がじんじん 痛くなる ふじゆう になって おかしくて それはじゆうで たぶんなしあわせ

 

 まとまった休みがとれたので南のほうの島へ行く。リアス式の海岸線

が美しく、ささやかな漁港がある小さな島。水色や翡翠色をした透明度の高い波がうねり自然のままのにわきでる茶褐色の温泉があるところ。

 静けさを生むあたたかさをもとめて。


1日目

 曇り空のした、埋立地にある桟橋から高速船に乗っておおしけの海へむかう。

 湾の途中には灰色の自衛隊の船や黒々とした潜水艦をみかけ色のせいか少し恐々としたような不安な気持になる。様々な色のトランクを積んだ大きな貨物船が悠然とおよいでいてトランクといえばなぜかバナナがはいっていると思ってしまう。

 大海原に浮かぶ船の姿を眺めているとすべては満ち潮に従った流れの上にあり、どこか悠然とした強さもあり、まるで女のひとの人生のように思う。

 島につくまでにあまりにも波が荒れたせいで、乗っていた高速船のエンジンが片方とまってしまい、船がガクガクと揺れはじめたので途中にある中くらいの大きさの島で小さな船にのりかえた。のりかえた船の揺れもすさまじく、船窓の半分ぐらいが水に埋もれ平衡感覚を失う。船酔いがきつくなり酔いを誤魔化すために関係ないことを考えようと思っているうちに島に着く。

 松が岩肌に生えたカモメのたくさんいる小さな漁港へ着く。すこしぶらぶら歩いても、ひとっこひとりいない。泊まる民宿の部屋には和風の花器に咲きかけの白と黄色のフリージアが飾られていた。

 島の海岸はどこも丸石がころがった白砂の浜で、どの石も角がなくまんまるとしていて軽石のように重みがなく、紅色あったり薄い緑であったり柔らかなオレンジ色であったり、和菓子のようにほんわかした色をしていてかわいらしい。いくつか持ってかえる。

 晩の食事には柔らかい赤イカや岩海苔の佃煮が出てきて生の海の味に、ほぅと溜息をつく。

 


2日目

 朝はやく散歩に行く。しんとした静けさのなか鳥が賑やかにうたっている。扇形をした楽園のような小さな入り江へ着く。数秒ごとに太陽の射すちょっとした角度や光線の加減で青が濃くなったり淡いエメラルドグリーンに変化していて、とても美しい。

 道すがらのお爺さんが海沿いにあるいくつかの温泉について説明をしてくれ、島の温泉は海水と湧き出る熱湯がまじるのでその日の波の具合を読まなければいけないと教えてくれる。そしてここらへんでは何処を掘っても温泉なんだよとほくほくとした笑顔で語ってくれた。

 島の円周は10キロ程度なので歩くのに丁度よい。緑の中にでホオジロやシジュウカラ、磯ひよどりといったかわいらしい鳥にたくさん会える。

 なによりも姿をあらわすことのすくない鶯がそこらじゅうで鳴いていることが贈り物のようにうれしかった。

 展望台へのぼる道ではキジが前を横切る。キジの姿をみるのは小学校の飼育係以来で眼があった瞬間にからだが固まってしまう。孔雀と同じで雄のほうが鮮やかな色をしている。野道にはハゼやもちの木や野あざみや山椒や野ばらがあり、いたるところに濃い緑色をした明日葉が茂っていた。

 展望台にのぼってからベンチで持ってきたおむすびを食べひといきする。それから火山灰の岩山でできたさらに高い場所をめざす。

 そのさらに高い場所には絶壁があり空間を裂くような強い風が吹いていた。360度地平線と海しかみえない乾ききった砂漠のようなところ。 少し足をふみだせば海へ落下してしまうけれど荒々しい美しさがある。ひろがる大海原には近くにある数々の島がのっそり浮かんでいて遠近感が狂うような不思議な感覚におそわれる。

 夢の中にはいりこんでしまったような風景、もしくは夢の中で味わったことのあるような奇妙な感覚。

 

text/石川カヲル
     

 


3日目

 気に入ってしまった扇形の入り江に行って浜昼顔や月見草に似た草を根ごとくすねたあと、我慢できずに海にはいって水遊びをする。水はゆらゆらと光を乱反射し、ひたした自分の足がやけに白い。

 鮮やかな赤や緑や乳白色の海草がところどろこのたまりに浮かんでいる。どうしても海草が食べたくなって口にすると美味しい塩味がした。自然の海草はカラフルをこえ、透明感がするどい色をしていた。

 波にゆられながらゆらゆらと楽しんでいると遠くに漁船がみえる。

 怖いぐらい透明な波に足をつけると冷たくて指先が痛い。小さい頃に泥あそびをした時のような、無邪気な心地よさをおもいだして幸福なきもちになる。

 島国に住んでいるのに島に行くというのも変なものだと思うけれどどこにでもいける、そんな旅らしい気持と四六時中明るい街の空の下で暮らしているこうしているあいだにも、島には風が吹いたり鳥が鳴いている。

 豊かで厳しいうねりのなかで海にかこまれ編むように生きる人がいる。小さな島の世界とそれをつつむ大きな世界は異なるものではなくよく似ている。

 なんだかあたりまえのことのようだけれど、

 

 日本の島はとてもやさしい。

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2004年6月28日号掲載