text/吉田直平
p r o f i l e


 
 

朝の通勤電車に揺られながら、先ごろDVDで見た「ミスティックリバー」(テレビ画面で見る映画ではない)を反芻するうち、自然、この監督の処女作「恐怖のメロディ」のいくつかのシーンが脳裏に去来し、次いで、眠気のとれない朦朧とした意識に、なぜかよりによって「悪魔のいけにえ2」の、DJが闇の中で語りかける深夜の地方局スタジオ、じつに執拗に描写されたあの階上の空間が浮かんできて、しかしそれにしても、あの空間は南部テキサス風ではなかったと考える(「恐怖のメロディ」の舞台は、たしかカリフォルニア)。

DJのヒロインは、十数年前に撮られた前作に絶えまなく流れていたラジオ放送の演出から登場することになったのかもしれないが、それにしても、アメリカ人の、おそらく都市的想像力(なつかしい言葉だ)を刺激した南部テキサスの描写がその続編には希薄で、デニス・ホッパーがくそまじめに被るカウボーイハットぐらいしか記憶に残っておらず、つまりギャグサービスにあふれていて、もしやトビー・フーパーは前作もまたすべてユーモアのつもりで撮っていたのではないかという疑念(それはそれでコワい)が生じる。

カウボーイハットを目深にかぶったデニス・ホッパーが荒唐無稽にチェーンソーを振り回しながら遊園地の地下坑を突き進み、工事中の塔の先端にのぼりつめていく神々しいシーンの充実ぶりを思い出したところで、いかにもトビー・フーパーが好きそうな安手の奇譚を最近テレビで見たことに気がついた。

地方巡回のテントの見世物小屋だかお化け屋敷だかで、アルバイトの少年が人形の腕を過って折ったことから、その人形が本物のミイラだと判明したという事件で、ミイラはじつは西部開拓時代の伝説的なおたずね者のものであり、1950年代まではマンハッタンの片隅にある見世物小屋で展示されていた――番組では、その小屋の入口を写したモノクロ写真がそこで挿入される――というのだが、それにしても、保安官が撃ったライフルの弾がミイラの体内から発見されたことが真相を明かす決め手になったとかいう、その話のなんと映画的なことか。

2004年12月13日号掲載