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text/ 高梨 晶
 
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の間諸星大二郎の項で触れたら本誌編集後記でも取り上げられていたが、1970年代に少年ジャンプが世に出した恐るべき新人のひとりは諸星だがもう一人はますむらひろしだ。編集子も書いたようにその登場は衝撃的だった。デビュー作は「霧にむせぶ夜」という作品で、夜霧の中での猫の語りが中心となっていて文明社会への強烈な風刺となっていた。猫は不気味だったし、最後に猫が、人間だけを骨にしてしまう薬をまいて、通りかかった人間が骨だけになってしまうシーンは怖かった。あんなものが少年ジャンプの新人賞を取りその作品が掲載されたのだ。当時幼かった私の驚きは当然であったろう。この作品はサンコミックス『永遠なる瞳の群』(朝日ソノラマ)に収録されている。

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かし私はその後ますむらひろしを見失う。再び出会ったのは友人が勧めてくれた『アタゴオル物語』であったのだが、最初私はこの作品の作者があの「霧にむせぶ夜」の作者と同一人であることに気づかず、少したってから気づいたのであった。そのときの驚きといったら!

 その後ますむらはアタゴオルシリーズを描き継ぐ。『アタゴオル物語』『アタゴオル玉 手箱』、現在は『アタゴウルが猫の森』という作品を「コミックフラッパー」誌上で連載し、メディアファクトリーから刊行している。その他に宮澤賢治作品のマンガ化にも精力的で何冊も作品を出している。中でも「銀河鉄道の夜」「グスコーブドリの伝記」は秀逸である。もはやデビュー作の頃とは作風を異にし、独特のファンタジー世界を構築する。(しかしデビュー当初から持っていた毒はその奥底に大切に仕舞われている。)

 その後私はますむらひろしの愛読者となり、その作品は全て持っていると豪語出来るほどである。

てアタゴウルシリーズであるが、それはアタゴオルというどこにもない森を舞台とする物語。猫と人間が共存し、彼らは森の中の粉雪亭という酒屋に集い、森の中の謎解きに熱中する。もちろんその中心にいるのはヒデヨシというとんでもない猫で、彼は本能のままに生き、何でも食い、節操はなく、食い逃げはするし、借金は踏み倒すし魚屋からマグロは盗むし…。しかし何ものにも変えがたいエネルギーを発散させつつ今日も元気にアタゴオルを闊歩しているのである。そして本誌編集子が言うようにますむらひろしはその全精力を傾けて森の中のファンタジーを作り出す。

 私が一番好きなのはアタゴオルの森に雨が降るシーンである。何故か雨の降りしきる森は懐かしいのである。そんなとき私も巨大な蔓を伝って粉雪亭に行きたくなる。そして猫正宗を夜更けまで飲みたいなあと思う。
 私の密かな願いは死後にアタゴオルに住むことなのである。 (高梨・T・晶)

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