text/ 高梨 晶
 

版のしごとにまだ携わっていたころ、「エレキな春」でデビューした某まんが家夫婦の本を部下が編集していた。夫婦とは打ち合わせもかねて何度か食事をしたが、世代が近いせいもあって、夫婦生活の話はとても面白く、好感をもったことをおぼえている。もっとも、夫婦とはたいてい面白いものであって、別の女性部下が結婚し(今は離婚したが)、自分たちの生活の話──たしか、ベッドからどうしても布団がずり落ちてしまうので、大きなゴムバンドで、ベッドごと足もとをしばりつけているとのことだった──を聞かせてくれた。ヘンナフーフデショ、と自分でつぶやいて彼女はフフフとわらったのだったが、多かれ少なかれ、夫婦は変なのだ。けっして他人にはわからないし、説明不能なのである。あれはいったいなぜなのか。

 
        
   通  そ  あ    
   底  れ  ら    
   し  ぞ  ゆ    
   て  れ  る    
   い  植  オ    
   る  物  タ    
    ゜ の  ク    
      根  道    
      の  は    
      よ       
      う       
      に       
         
                 
                 

 

で、

Wアンノである。この本は話題になったし、新聞の書評欄も含めていろんなところで取り上げられたので──庵野秀明の動向はなぜか朝日新聞が取り上げるような気がする。朝日文化欄好みなのか──読んだ人も多いだろう。今さらここで取り上げるのも気がひけるのである。それに筆者は安野モヨコのまんがを読んだことがないのだ(この連載でもかつて取り上げられたかの有名な『ハッピーマニア』ですら!)。

 これを読んで思うのは、あらゆるオタク道はそれぞれ植物の根のように通底しているのだなということで、アニメ・マンガ・特撮・アニソンというところまではわかるが、庵野監督はさらに鉄ちゃんでもあるらしいし、スナック菓子のオタクでもあるようだ。安野モヨコはカントクに導かれてオタク道へとはまっていくのだが、そのへんの阿吽の呼吸は夫婦ならではのものがあり、秘儀伝授の趣きがある。

 

さらではあるが、オタクがオタクでよかったと感じる瞬間とは、大人買いをなしとげたときであろう。というわけで、浪費に浪費を重ねるこの夫婦は、猫を飼いはじめたとたんに、「猫トイレ(×2)、つめとぎ、キャリングバッグ、その他各種ケアグッズ」と新たなリストを作っていくのだが、さらに、もし自分たちに子供が生まれたらと想像し、「ベビーベッド特注とか、ブランドベビー服とか、それどころか……まさか『自分ちの子主演自主制作映画』? 自分ちの子主役の絵本? 自分ちの子主役のまんが…やってしまうかもしれないじゃないですか…」とうっとりするのである。いつのまにか浪費リストがファンタジーにすり替わっているように見えるが、しかし実際には映画や絵本やまんがもモノそのものである。やっぱり、あくまでもモノに固執するのである。

 しかしながら、巻末に載っている庵野秀明インタビューによれば、カントクは「エヴァ」以降、脱オタクを目指したそうだ。村上龍原作の映画を撮ったりしたのはそーゆー流れだったのだろうと思うが、それからおもむろに、自らの原点であるような実写版「キューティハニー」を撮ってしまうところが(庵野は学生時代に「仮面ライダー」を自主制作している)、オタクを超えたオタクへの道だったのである。

(高梨・C・晶)
2006年12月18日号掲載

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