text/吉田直平

お約束の形容詞「鳴り物入りで」登場した“プレイステーション2”。ゲームソフトの装着率は1台につき2本を割る、文字通 り家電製品としてスタートしたわけだが、しかし、そんなことはここでは問題ではないのだ。ヴィデオゲームは、このマシンによって何か変わるのか?

p r o f i l e

 

 PS2の経済効果とは、もちろん、ゲーム業界の景気よさを意味するわけではなくて、とくに、DVD再生機能を備えていることによる映画ソフト業界への <特需>のことであった。発売初期のゲームタイトルには「FF」のようなキラーソフトがなく、DVD再生機能があればこそ、このゲーム機の購入層の平均年齢がぐんと高くなることが予測されたのである。TSUTAYAをはじめ大手のレンタルヴィデオチェーンでは、3月4日をにらんで一斉にDVDソフトのラインナップを揃えたし、話題作「マトリックス」のヴィデオ発売もこの時期にセッティングされた。

 しかしながら、PS2を買ってDVDの鑑賞におよんだ者の多くが戸惑ったと予想されるのは、<ゲーム機を操作して映画を見る> という点ではないだろうか。再生ボタンと巻き戻しボタンさえあれば事足りるヴィデオソフトとは違って、DVDの特性とされている <インタラクティヴィティ> を愉しむためには、どうしてもある程度の <操作> を要するのだが、それをゲーム機のコントローラをもって行うことには、抜き難い違和感が感じられたはずだ。

 3月4日を過ぎて2週間ほどたち、新聞に報じられたのは、初期ロットのPS2に搭載されたDVD再生ソフトが、 <ある操作をする> ことによって、リージョナルコードを読まないようにさせることができ、海外ソフトを再生可能になる、というニュースであった(DVD機器は、国ごとの著作権を守る意味から、国を認識するリージョナルコードを認識させる機能を付けている)。<ある操作> が仕様外の動作を可能にするという事態は、つまりバグで、ゲーマーにとっては馴染み深い「裏技」というものである。家電製品にはありえないバグ=「裏技」の存在によって、PS2は、まぎれもなくゲームマシンであることを宣言しているように思われる。

 一方、SCEが <エモーショナルエンジン> と名づけたその驚嘆すべきパワーは、今のところ、これまでにない斬新なゲームソフトを生み出すにいたってはいない。なぜか新味に乏しい「ファンタビジョン」、単なる続編に過ぎない「I.Q.REMIX」、しょせんはゲーセンと同じで、しかも高すぎる「ドラムマニア」。残る期待は「電線(仮)」だが、発売予定は未定である。

 そこで、言わずもがなの <リアルさ> が、強調される。たとえば「リッジレーサーV」における、軋るタイヤの焦煙。「決戦」における騎馬軍団の滑走。「エターナルリング」における <3D酔い> が意味している、過度な開発期間の圧縮。

 しかし、このマシンにおいて、 <リアルさ> を強調することほど興ざめなこと、退屈なことはない。それはほとんど、DVDを再生できるということを称賛するのと同じようなものではないか。

 実のところ、すでにわたしたちは、「バイオハザード コード:ベロニカ」「シェンムー」という、ある種の到達点を体験してしまっている。その豊穰さの前に、今後、ゲーム機=ハードウェアはいかに変容できるのだろうか。

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