text/吉田直平

世界の注目を浴びたプレイステーション2の発売後、わずか3か月ちょっとで発売されるSCEの戦略商品「PS One」は、プレイステーション市場を1年以上延命することになるだろう。
p r o f i l e

 

 

 

 小学生となったSMAPが新作ゲームの噂に夢中になるCF(SMAP全員の出演料よりも、手持ちのキャメラで撮影した小学生たちの素材に、SMAPの頭部をつなげた映像編集のほうにこそ、金がかかっている)で、話題をさらった「ドラゴンクエストVII」(エニックス)の発売日は、しかしCFが放映された5月下旬からはずっと遠い8月26日なのであった

 そもそもの発売予定は1999年であり、思えば1999年正月に放映されたCFで、人々はそれがプレイステーション版として制作されることを知ったものである。その後、発売日は秋、年末、2000年初頭、3月、連休明け、と様々に予測されてきたのだが(5月発売は単なる「予測」ではなく、エニックスによる「発表」であった)、ついに6月の株主総会を控えて、最終的な日付を発表せざるをえなかったのである(発売に3か月も先立つCF放映は、株主総会を前に発売延期を発表するタイミングを逸し、テレビのスポット枠をキャンセルしきれなかったと考えられる)。ここまで制作が遅れた原因は、プロデューサーである堀井雄二氏がゲームの完成をあくまでも否定しつづけたことにあると言われている。 ドラクエVII の発売日変更は、ゲーム業界を牽引するもうひとつのゲームソフトにただちに影響を及ぼす。7月21日(それは夏休みにあわせた最高のタイミングと言われていた)に発売を予定されていた「ファイナルファンタジーIX」(スクウェア)の発売は、急きょ7月7日に変更された

 これら大作RPGのプレイ期間は、(ごく普通のユーザーであれば)およそ200時間とか300時間と言われる。小学生が毎日放課後の数時間を費やしても2か月弱、会社員なら半年は優にかかる計算だ。現に、連休前に発売された「ゼルダの伝説  ムジュラの仮面」(任天堂)のほとんどの購買者は、まだゲームをクリアしていないのではないか(先週末あたりで、そろそろ終わりかけている)。7月7日にFFが、8月26日にドラクエが発売されるということは、つまり、数百万台のプレイステーションのCDドライブが、7月7日から11月まで断続的に塞がってしまうことを意味する。

 さて、しかし、この稿の目的は、これらRPGについて書くことにはない。

 本稿が注目するのは、FFIXの発売と同日に姿をあらわすSCE(ソニーコンピュータエンタテインメント)の戦略商品「PS One」である。世界の注目を浴びたプレイステーション2の発売後、わずか3か月ちょっとで発売されるこの商品は、プレイステーション市場を1年以上延命することになるだろう。

 通常、ゲーム機はゲーム機を駆逐する。セガサターンや、さらにドリームキャストはプレイステーションに敗れ去っていったし、ニンテンドウ64は独立した立場を確保しているにせよ、その登場で同じ任天堂のスーパーファミコンは市場の座を明け渡した。PS2は <次世代> ゲーム機と呼ばれたが、 <世代> の移行期にどのような戦略をうつかということは、メーカーにとって最大の難問なのだ。セガサターンやプレイステーションの登場時期に、ニンテンドウ64の発売を延期せざるを得なかった任天堂が、「スーパードンキーコング」というエポックメイキングなゲームを発売することで、スーパーファミコンを丸々1年延命させたように。

 予想されたこととはいえ、6月現在のSCEにとって、最大の問題は、プレイステーション2のソフトには主役が不在であるという点だ。あれほど喧伝されたPS2のパワーは、その後まったくなりをひそめ、いまだに開放されずにいる。凡百のソフトが胸を張る「PS2の真のパワー」とやらを知るためには、おそらく、秋といわれる「鬼武者」(カプコン)や、さらには2001年夏といわれる「メタルギアソリッド2 サンズ オブ リバティ」(コナミ)を待たなければならないだろう。そんな中、<国民的なゲームソフト> であるドラクエとFFは、PS2版ではなく、PS版ソフトとして発売されるのである。

 PS Oneは、現行プレイステーションの改良ハードであるから、当然PSとの互換性を有し、現行PSと同じ15,000円で発売されるが、見た目はPSよりもずっと小さい。CDサイズよりひとまわり大きいだけである(幅 193×高さ38×奥行き 144mm)。SCEのプレスリリースに掲載された写 真を見れば、このハードには9インチの液晶画面と PHSへの接続インタフェースが用意されていることがわかる(液晶インタフェースは来春、通 信インタフェースは今冬発売)。つまりこのマシンは携帯ゲーム機なのである。

 携帯ゲーム機といえば、今夏に予定されていた任天堂「ゲームボーイ・アドバンス」(以下GBA)の発売は年末まで延期されてしまった。GBAのゲーム機としての性能はスーパーファミコン程度といわれるが、最大の特徴は、やはりPHSへのインタフェースを備え、公衆回線上での通 信をゲームに取り込むことにある。

 ゲームを携帯すること、さらにゲームに通信機能をもたせることに、いったいどんな意味があるのか。一般 に(つまり日経新聞的には)、通信機能は、ユーザー同士のデータの交換や、メーカーからの新シナリオのダウンロードなどをもたらす、ときわめて散文的に説明されている。通 信機能は単なるゲームの付加機能なのか。それともヴィデオゲームを根底から変貌させる要因となりえるのか。

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