海外旅行者にとってトイレ事情は馬鹿にはできない事柄である。わが家には「ロンドン野糞事件」としては長らく語り継がれている事件がある。

 

 

 

 

 

 

   
 
▲どこまで続くイギリスの大地。
 


 

 

 

 

 

 

 

 

   

 私はとりあえず煙草を吸う場所を求めて外へ。すでに5時半だが、まだ外は完全に明るい。サマータイムを使用しているせいと、元もと日が長いせい。

 トイレに行きたくなったのでトイレへ。ガイドブックには結構有料のトイレもあると書いてあったが、滞在中結局最後まで有料トイレには出会わずに済んだ。なにしろ17年前に新婚旅行でロンドンに来たとき、腹具合が悪くてトイレに行きたくなったときに見つからず難渋したことがある。そう、あれは妻とテイトギャラリーに行こうとしたときのことだ。今でも忘れはしない。日曜日だった。イギリスは日曜日は休みの店が多く、その日も多くの店が閉まっていて、トイレを借りるために駆け込もうにも駆け込む店が見つからない。日曜日で人通りが少なかったことをいいことに、たまたま見つけた駐車場の隅にしゃがんで用を足したのだ。以来、「ロンドン野糞事件」としてわが家では長らく語り継がれている事件である。しかし、翌日駐車場の隅になされた惨状を見つけたら、ロンドンっ子もさぞ驚いたことであろう。新婚の妻だってかなり驚いていた。そりゃ驚くわな。

 閑話休題。

 そういうわけなので、なにしろトイレには敏感である。ちょっとでも便意を感じたらまずトイレを探す。尾籠な話で恐縮だが、海外旅行者にとってトイレ事情は馬鹿にはできない事柄である。ご用心。

 6時10分、日本からの学生が全部集まったのでバスの運転手に先導されてバス乗り場へ。娘と年格好が似た女の子が娘の隣を歩いている。私は彼らを先導しては為にならぬと思い彼らの最後尾を歩く。すると、娘ともう一人の女の子が前の人たちを見失ってしまった。仕方なく先導の運転手を探すと少し先で待っていてくれた。その子もちょっとおっとりした感じで、娘といいコンビである。中学生かと思っていたら高校生だと言う。千葉から来た子で、このセミナーはインターネットで見つけたとか。

 6時15分、バス乗り場で他の国からの学生を待つ。ポルトガルからの便が遅れたらしくずいぶんと待った。待っている間、千葉の高校生とわが娘はいろいろと話し込んでいる。私は離れたところで煙草を吸っていたが、「えーーっ、うそーっ」というような声が聞こえる。すでに仲良くなっている様子。そういうところは頼もしい。

 6時45分、全員集合したのでバスに乗り込む。運転手が私にいっしょに行くのかと問う。これからケンブリッジまで行くと8時過ぎ、きっとケンブリッジからロンドンに向かうのは10時頃になってしまうだろうという計算が働く。そうまでしてケンブリッジまで行く意味が果たしてあるのだろうかという考えが頭をよぎる。なにしろヒースローからロンドン・パディントン駅まではヒースローエクスプレスを使えばたった15分。地下鉄を使っても45分で行けるのである。

 しかし、どうにかなるだろうと思い、ええいままよとバスに乗り込む。

 娘は千葉の高校生を隣の席に誘っている。高校生は、私の方を振り向いて、お父さんと一緒じゃなくていいの?という顔をしているが、娘は自分の隣の席をバンバン叩きながらここに座れというジェスチャーをしている。私は肯いて見せて、彼女を娘の隣に座らせる。私は彼女たちの後ろの席に座る。

 運転手は人数の確認をしている。

 さっきヒースローで待ち合わせ場所の女性に聞いたらケンブリッジまでは1時間半くらいかかると言っていたが、ラテン系の学生から到着の時間を聞かれた運転手は前の方で2時間くらいと答えている。おいおい、2時間もかかったらケンブリッジ到着は9時頃か。どうなることやら。

 バスの外の風景はひたすら平原。イギリスには山は少ない。しかも家も少ないし、工場らしきものもない。これが日本だったら、家や工場が必ずあるだろう。それがひたすら平原ということはどういうことか。これでよくイギリスは工業革命なんて出来たものだ。まるでこれでは農業国ではないか

このページの先頭へ