p r o f i l e
両手を
合わせる
 天気はよいけれども、波はぱっとせず、午前中、1時間半ほど入る。浜に近いインサイドで、たまにくるヒザくらいのたけの波、一瞬横に滑ると、もうそれで終わる。そのたまにくる波を、ぼうっと何も考えずに待つ時間の長いこと。ゆらりゆらりと、板の上にまたがって、沖をながめ、空を見上げ、そしてまた水面をながめる。

 小指ほどの小魚がいっぱい飛び跳ねてて、陽光を受けて銀鱗がおびただしくまたたく。何に追われているのか。たぶん、浜の釣り人が狙っている大物は、小魚の捕食者なのだろう。小魚の群れが水面を跳ねる音は、小禽のさえずりに似ている。それだけの群れが右往左往しているので、カモメも十数羽ほどあたりを飛び回っていて、どうやらランチタイムを決め込んでいるようだ。

 あまりに無為に浮かぶ人の姿は、彼らの注意をひかないのか、すぐ近くをかすめるように飛んでいく。羽音が振動のように伝わってくる。見上げる白い胴体は、羽を感じさせないほどつるんと滑らかで、海面に舞い降りる瞬間の翼の畳み方は、合理的な工具かなにかのようにとてもメカニック。

 追われているうちに、うっかり板に飛び乗ってしまった小魚を、そっと手のひらで覆い、ぴちぴちはねる感触を楽しんでから、放す。

 聞き耳をたてると、小石が波打ち際でしゃらしゃら鳴っていて、生き物たちがこまやかないのちの物音を立てていて、それは驚異的な現象や破壊的な大波やめったにない出来事や季節ならではの珍しい光景と比ぶべきではないけれども、ああ、海だなあ……と両手を合わせるような、ひとりの海。そんな波乗り。

top back next

2007年6月4日号掲載