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text/ 高梨 晶
 
『ハ

ムスターの研究レポート(以下ハム研)』はおもしろい。私は全巻持っている。ペンネームも大雪師走だ。安易でわかりやすいぞ。現在はどうだかわからないが、連載初期はOLをやりながらこの『ハム研』を描いていたそうだ。 その素人っぽさが受ける理由だ、という意見もあったが、私はそうは思っていない。作者は立派なプロであり、受ける要素を十分承知している。なぜか。選んだ題材がまずすばらしい。ハムスターである。ネズミである。

我々日本人は ネズミに弱い。浦安にはネズミの牛耳る国があり、そこではいい大人がネズミの帽子をかぶって歩いているではないか。何万人もの日本人が一年前からホテルを予約しクリスマスをネズミの国で過ごすではないか。今でこそ欧米で大ブレイクしている黄色い怪物ネズミも我々日本人のネズミ好きから生み出された。そうに違いない。

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   あ  決  大    
   り  し  雪    
   得  て  の    
   な  し  描    
   い  ゃ  く    
   表  べ  ハ    
   情  っ  ム    
   を  た  ス    
   見  り  タ    
   せ  せ  |    
   た  ず  は    
   り   ` あ    
   し     く    
   な     ま    
   い     で    
    ゜    リ    
         ア    
         ル    
         で    
         あ    
         る    
          ゜   
p r o f i l e
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ころでこのマンガのもう一つのすばらしいところはどこか。ハムスターの生態を描くに当たってデフォルメや感情移入を極力排除しているところである。最近のマンガ界でハムスター物というのはひとつのジャンルを形成している。ご存じの方も多いだろう。専門のマンガ誌すらあるのだ。しかしそのほとんどはめちゃくちゃである。過剰なデフォルメと作者の感情移入。結果 過剰な少女趣味の作風になってしまい、目を大きく描いてみたり、メスにはまつげをつけてみたり、ハムスター自身がしゃべったりする。

 その中にあってこの『ハム研 』は格段に優れている。なぜか。本物のハムスターはその外見、しぐさがすでに我々をとりこにしてしまうということを作者が十分承知しているからだ。大雪の描くハムスターはあくまでリアルである。決してしゃべったりせず、あり得ない表情を見せたりしない。飼い主として登場する作者も簡単な描写 で(まるで教習所テキストのイラストのようだ)こちらも表情がわからないようになっている。飼い主としての作者の溺愛度は相当なものだろう。私もハムスター飼育経験者だ。その魅力は十二分に承知している。とにかく愛らしい。溺愛しない方がどうかしている。しかし大雪はその愛をぐっと抑える。そして客観的 な描写に徹するのだ。そのおかげで「大雪のペットであるハムスター」ではなく「ハムスター全般 」について認識できるので、誰でも抵抗なくその世界に素直に入り込むことができるのだ。

 単行本初版が1990年11月、現在5巻が発売中。コミック・モエ(MOE出版)からコミック・Fantasy(偕成 社)に移り、現在はコミック誌・メロディ(白泉社)で連載されている。

 子供の頃からハムスターを飼育してきたという作者がハムスターの飼育にまつわる 雑事を4コマで描くというスタイル。上記掲載誌から判断すれば(イラストレーター永田萌の雑誌である)読者層はまず10代後半から30代前半までの女 性。単行本化後は男女の児童生徒程度の年齢にも人気がある。この辺が「大の大人」には抵抗のあるところだ。しかし私はことあるごとに一冊本棚から取り 出し、にやにやしながらこのマンガとともに時間を過ごす。私にとってこのマンガはあえて手に取った者のみが享受できる密かな愉しみなのだ。 (高梨・A・晶、00/11/20号)

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