電脳世界における
ごく反動的なる古典的文芸同人誌
SINCE 1997.12.24

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[椏月ライチ] テディ
 小雨の中、空かせた腹をすこしでも満たそうと空っぽの冷蔵庫を尻目にアパートの部屋を出た。街をあるけば何かにありつけるかもしれない。いつかは歩いているだけで人形のような女にハートの形をしたチョコレートのかけらをもらい、また別の風船のような女には小さなプラスチックのカップに2センチほどはいった赤ワインを差し出された。
 5時間ほど繁華街を徘徊したが、上着のポケットがティッシュでふくらんでいくだけであった。
[村上みみの] 愛情乞食
愛に乏しい人生を送ってまいりました。いいえ、溢れんばかりの愛情を注がれてきました。過剰な愛情は、私を完膚無きまでに叩きのめし、私は重力に耐えかねて心のカタワとなりました。
私の愛情のレヂスターはインキも紙も尽きて、それでもまだ作動せよ、と命じられました。私はある晩、睡眠薬に手を出しました。たちまち、中毒になりました。カルモチンは、この世をトパーズ色に染めてくれるのです。
[冷泉長門] ギロチン・ロマンス
黒い服の集団から少し離れ、握ったり閉じたりする自分の手をぼんやりと見ながら、佇んでいるハルチカ。
喪服の女 「あの、すみません。この後はまた待合室のほうへ戻った方がいいんでしょうか?」
気付かずぼんやりしているハルチカ。少し気まずそうに背後で返事を待つ女。
蝉の声。
喪服の女 「あのう、このあとはどこへいったらいいのかしら?」
回り込みハルチカの顔を覗き込むように言う女。
少し驚いた顔で女を見るハルチカ。
ハルチカ 「どこって」
喪服の女 「いえだからこのあとのお浄めは、このままここでやるのか、場所を変えるかってことで」
ハルチカ 「や、俺葬儀屋じゃないんで」
喪服の女 「え? あらごめんなさい……やだわ紺の背広だからわかんなくって。ほんとやあねえごめんなさいねえ」
笑いながら照れ臭そうに去る女。
振り返り歩き出すハルチカ。
ふと目が合った葬儀屋の人間が深々と頭を下げる。
足を止め、含羞んだように笑い、ズボンのポケットに手を入れ俯くハルチカ。その表情 。
[ポム] '08年卒一人娘シュウカツ観察記
「K大で成績もまあまあなら、どこでもあるわよ!」
 友人たちからそう言われた昨年の秋。そうかな、ほんとかな?と思いながら、一人娘のシュウカツが始まった。「バブル到来、売手市場」とメディアが盛んに報じていたので、当初は半分以上安心していた。ところが、いざ始まってみると、この先いったいどうなってしまうのかと、つとめて冷静さを保ちながらも健康など心配して見守る半年間となったのである。
 08年卒のシュウカツは決して世間が言うほど楽勝ではなく、業界を絞らなくてもキツかった。バブル期や氷河期に比べて大学生数も増加したことや(分母が増加した)、シュウカツの形態が大きく変わったこともある。
 これからシュウカツが始まる子供をもつ友人も多い。21歳の一人娘のシュウカツを、報道とは異なる事実を50代の親から見た記録として友人たちにおくりたい。
 世間で言われるシュウカツバブルとは?
 入社3年で辞める若者たちを「転職も楽勝!」と煽るメディアは、信じるに足るのか?
[しお] 体位 - こうそくどうろ
みちをまちがえたシンジは、すこしきげんがわるくなり、
ひきかえすとすぐにくるまをわきによせてとめた。
よなかのこうそくどうろ。とめたとたんにあめのつよさがわかった。
くるまはとおっていなかった。あめのおとしかしなかった。
シンジは、「シオ」といってわたしにもたれた。
そのままキスしてきた。シンジのあごのヒゲがわたしをくすぐる。
シンジはじょしゅせきのしーとをうしろにたおし、
わたしのうえにのっかりキスした。
あめのおとがつよくなる。
シンジはわたしをこうぶざせきにいどうさせた。
[吉田直平] 鰻
 ほそい、すきとおった骨を丹念に取り分ける。青い畳のうえでこっそりくずした脚のあいだから、ゆらりと熱がたちのぼって。
「雨にあたられながら」
「そんな時間まで?」
 蝋燭の光でもないのに恐ろしく心細い明かりだ、黄ばんだ壁に焼きついた影が揺れる。通過する電車の振動で木枠に嵌ったガラスががたがた鳴る。下卑た箸先でつまんだ骨を明かりに透かしてじいっと凝視する。半眼で気持ち悪い。
「死んだものだとばかり」
[冷泉長門] 水の環
 駅を取り囲む繁華街を抜けると、一方通行の多い住宅街があります。細く勾配のきつい坂道を、自転車を押しながら上ってくる主婦や学生などとすれ違いながら、下っていきましょう。
 豚カツ屋の角を曲がり突き当たりを右に折れると、旧川越街道から少し外れたところに、小さなアーケードを構えた商店街があります。カレーの不味い鶴亀食堂、双子の主婦が営む喫茶ジェミニ、草もちの美味しい伊勢屋などがあるものの、二店ほどあるコンビニのおかげで、シャッターの開いている店の方が少なく、見渡せば、冬だというのに電柱に吊るされたままの七夕の飾りが揺れています。
[水原櫻] On the Border ある日記
 今日は通院日。
 診察後に心理検査室にて40分のカウンセリング。箱庭療法は今日はなかった。臨床心理士の先生も主治医の先生もとても温かくて、最近は病院に居るのがあまり苦痛ではない。
 家族や近しいひとには云えないことが沢山ある。これ以上心配をかけるのも、乱れているわたしを見せるのも厭だ。でもここでは思いのすべてを吐きだしてもいい場所。『苦しい』と云っても自分を許せる場所。
 これから生きてゆく喜びを知ってゆく少女が殺されてもっともっと生きたいと思っているひとが死んでしまう。なのに五体満足のわたしは死を切望するときがたくさんある。
[kenji siratori/Concept-7] ケミカル新人類
ワタシの血が憎悪するサイバーな胎児の殺人地帯路上がビビッドに思考するドラッグの無限な水平線を欲望する蟻のスキゾフィジカルな宇宙空間に <生命> がミクロの殺人をモードする少年機械のアウトプットな戦争が伝染するdog変身するデジタル=ヴァンプするADAMのレプリカントな脳髄ワタシの心臓がノイズするワタシの鼓動が人工太陽の青い子宮を侵略するアナタの幻滅ミリグラムクローン−スキンを愛撫するドラッギーな天使の非情都市細胞が戦慄する
[キムチ] マーケティング論批判序説
小泉純一郎首相が郵政民営化の是非を問うた第44回衆院選は2005年9月11日、投開票が行われ、自民党は単独で絶対安定多数(269議席)を大きく上回り、公明党と合わせて与党で全議席の三分の二以上を占める大勝を勝ち取った。政権交代を賭けた民主党は惨敗に終わり、岡田克也代表は辞表を提出した。
総選挙の結果を受け、朝日新聞社は12日から13日にかけて緊急の全国世論調査を実施しているが、自民が圧勝した理由を聞いたところ、「小泉首相が支持されたから」が58%で、「自民党が支持されたから」の18%を大きく上回った。「小泉ブーム」が選挙に与えた影響の大きさがうかがえる一方で、興味深いのは、今回の選挙結果については、55%が「驚いた」と答え、自民の歴史的な大勝と民主惨敗に戸惑いを見せる有権者の姿も浮かび上がったということだ。
[DJ80 Toshi] Out of the DJ Booth
 11月からつくばのカフェでDJを始めた。最近はDJが流行りで、様々な雑誌も出ているし機材もいろいろと売られているだが、ぼくの場合はDJそのものがやりたいというよりも、とにかく好きな音楽を流したい、そして聞いてもらいたいという気持ちからやっている。というのは、どんな音楽が好きですかという質問が実は一番困る質問であるからだ。
 ぼくは1979年に大学に入り1983年に卒業した。その間は東京に住んでいた。これはとても決定的なことではないかと思っている。ぼくにとっては1979年という年は象徴的な意味を持っている。
[上田美樹] 白夜
猥雑に乱れる髪の速度で   コマオクリに放り投げた
空を斬り初夏の冠毛とともに消失した
温めた絆と 埋め込まれた約束と
傷つけあった流血の接合体
歪んだプリズムが あなたの背離にある自意識の失速を追跡する
[アリエル人魚] シネマ・ラマン 愛人映画の愉しみ
 この連載では、読者の皆さんから「愛人映画」を挙げていただきながら、愛人という存在を気ままに考察していきたいと思います。ただし愛人を厳密に定義するようなことはしません。愛人らしき人が出ているだけでも「あれも愛人よ」などと、皆さんの愛人感性でご自由に挙げてください。暇で気が狂いそうな時、映画で知った愛人に悔しくなった時、こういう愛人なら私でもなれると思った時、寝つかれない時、お掃除の合間など、ぜひご参加くだされば幸いです。
[吉田直平] 水に書くゆび、読めない文字 その夜、ふと気がつくともう何時間も、川のことばかり男に話し続けているのだった。流れが横たわる景色やゆたかな水の気配、川をまたぐ橋の目をみはるフォルム、破線のようにとぎれとぎれに地図に現出する暗渠。そこまで川にこだわっていた自分に驚いた。意識したことなかったから。そうか。自分が好きなのは、川なのか。
 川といっても、とりわけ人工の水流。といえばやはり運河。小樽に神戸、ミナトヨコハマ。ロマンチックな運河に惹かれるなんていい歳して告白するのは正直照れる。実際は街並というより運河そのものが好きなだけで、少し殺風景な金沢八景ぐらいがちょうどいいんじゃないか。
[アリエル人魚] なめらかな背中の秘密 成瀬巳喜男の映画をめぐって 自分のホームページ開設して以来、少ないが特定の日本の監督作品を連続鑑賞し、ページを作ってきた。今年、生誕100年ということで、数本しか見ていない成瀬監督を、BS放映とフィルムセンター上映をきっかけに続けてみようと思い、勝手な推測だがヨーロッパの香りも多少予想しつつ、楽しんでいきたい。小津、黒澤、成瀬の中では一番好きな監督になるのではないか。
[吉田直平] ディアスボラ ユキはだいじなひとが帰って来るので心の表面にさざなみがやまず、いつだっていそがしいひとなのだから、しょせん文字通りの逢瀬、通りすがりの短いキス、すれちがいざまの慌ただしい抱擁にすぎないのだしと力なく言い聞かせるのだが、やはりいっこうに落ち着くことはなく、今までにいっしょにいられた時間は最長でも8時間で、ラブホテルのサービスタイムで過ごしたその一日も――タッパウェアにサーモンのマリネだのアボガドのサラダだの、あのひとの好きな胡麻豆腐だの蝦しんじょだのを詰め込み、
[夕暮]トワイライトノート とろけるような藍色をした、闇の底に立っていた。
しんしんと沈む夜の気配がなかったのでそこが夢だと気付いたものの、とりあえず何をしてみようもなかった。自覚ばかりが鮮明で目的もテーマも伴わない、不自然な夢の天はひたすらに穏やかで、星ひとつ瞬いていない。遠く交わしたきりの約束を形にするためにここにいるようにも思ったけれど、夢ではどうしようもないと自分を罵ろうとしたら、何故だかひどく喉が痛んで。
[追悼・Jaque Derrida]
世代的な区切りとして
 ジャック・デリダを追悼するということは二つの意味で難しい作業だ。
まず、私は熱心にデリダを追いかけてきた読者ではないという理由がある。デリダは、1990年代以降、政治への発言を積極的にはじめたとされるが、私は現在にいたるその時代の著作をほとんど読んではいない。
涙で文字が読めない 哲学者が死んだ。俺にできるのは引用ぐらいしかない。
〔以下、『盲者の記憶』(みすず書房)より〕
――哀願と慨嘆、 それもまた眼の経験だ。 私に涙のことを語るつもりなのか?
――そう、もっとあとで。涙も眼についてなにごとかを語るが、それはもはや視覚とは無縁だから。
[濱さと子] 寒月くんのこと
寒月くんて ちょっと よい
よい よい よい
いかにも 寒月 て 顔してる
寒月 らしい 寒月くん
月夜のイガグリ 栗かのこ
このごろ はやりの おとこのこ
水 金 地 火 木 土 天 寒月
ミルキーあげたら すぐ 噛みしめた