電脳世界における
ごく反動的なる古典的文芸同人誌
[週刊電藝]通算476号

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text/アベ ショウコ
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[しお] 体位 - こうそくどうろ
みちをまちがえたシンジは、すこしきげんがわるくなり、
ひきかえすとすぐにくるまをわきによせてとめた。
よなかのこうそくどうろ。とめたとたんにあめのつよさがわかった。
くるまはとおっていなかった。あめのおとしかしなかった。
シンジは、「シオ」といってわたしにもたれた。
そのままキスしてきた。シンジのあごのヒゲがわたしをくすぐる。
シンジはじょしゅせきのしーとをうしろにたおし、
わたしのうえにのっかりキスした。
あめのおとがつよくなる。
シンジはわたしをこうぶざせきにいどうさせた。
[冷泉長門] 水の環
 駅を取り囲む繁華街を抜けると、一方通行の多い住宅街があります。細く勾配のきつい坂道を、自転車を押しながら上ってくる主婦や学生などとすれ違いながら、下っていきましょう。
 豚カツ屋の角を曲がり突き当たりを右に折れると、旧川越街道から少し外れたところに、小さなアーケードを構えた商店街があります。カレーの不味い鶴亀食堂、双子の主婦が営む喫茶ジェミニ、草もちの美味しい伊勢屋などがあるものの、二店ほどあるコンビニのおかげで、シャッターの開いている店の方が少なく、見渡せば、冬だというのに電柱に吊るされたままの七夕の飾りが揺れています。
[キムチ] マーケティング論批判序説
小泉純一郎首相が郵政民営化の是非を問うた第44回衆院選は2005年9月11日、投開票が行われ、自民党は単独で絶対安定多数(269議席)を大きく上回り、公明党と合わせて与党で全議席の三分の二以上を占める大勝を勝ち取った。政権交代を賭けた民主党は惨敗に終わり、岡田克也代表は辞表を提出した。
総選挙の結果を受け、朝日新聞社は12日から13日にかけて緊急の全国世論調査を実施しているが、自民が圧勝した理由を聞いたところ、「小泉首相が支持されたから」が58%で、「自民党が支持されたから」の18%を大きく上回った。「小泉ブーム」が選挙に与えた影響の大きさがうかがえる一方で、興味深いのは、今回の選挙結果については、55%が「驚いた」と答え、自民の歴史的な大勝と民主惨敗に戸惑いを見せる有権者の姿も浮かび上がったということだ。
[アリエル人魚] シネマ・ラマン 愛人映画の愉しみ
 この連載では、読者の皆さんから「愛人映画」を挙げていただきながら、愛人という存在を気ままに考察していきたいと思います。ただし愛人を厳密に定義するようなことはしません。愛人らしき人が出ているだけでも「あれも愛人よ」などと、皆さんの愛人感性でご自由に挙げてください。暇で気が狂いそうな時、映画で知った愛人に悔しくなった時、こういう愛人なら私でもなれると思った時、寝つかれない時、お掃除の合間など、ぜひご参加くだされば幸いです。
[如月玲] ghost syndrome
 「ふわぁ……」
 中だるみの木曜日。白崎恋は、机に突っ伏して大きな欠伸をした。暖かい秋晴れの太陽が、恋の背中に当たる。ぬくぬくして気持ち良い。このまま瞼を閉じれば、光はなおも白く視界を輝かすが、構わずぐっすり夢の世界に落ち込んでしまいそうだ。
 が、この環境こそが、彼を現実に縛りつけた。
「恋、起きて」
 ふわり、と軟らかい感触が頭を叩く。まるでスポンジで叩かれた気分だ。
「……起きているよ……」
「って言ったって、私の目には、そのポーズはどう見ても寝ているようにしか映らないな」
「口うるさい奴……」
 スポンジは、弟・白崎愛の手だった。
[吉田直平] 水に書くゆび、読めない文字 その夜、ふと気がつくともう何時間も、川のことばかり男に話し続けているのだった。流れが横たわる景色やゆたかな水の気配、川をまたぐ橋の目をみはるフォルム、破線のようにとぎれとぎれに地図に現出する暗渠。そこまで川にこだわっていた自分に驚いた。意識したことなかったから。そうか。自分が好きなのは、川なのか。
 川といっても、とりわけ人工の水流。といえばやはり運河。小樽に神戸、ミナトヨコハマ。ロマンチックな運河に惹かれるなんていい歳して告白するのは正直照れる。実際は街並というより運河そのものが好きなだけで、少し殺風景な金沢八景ぐらいがちょうどいいんじゃないか。
[つんちん] 射手座月記 私の家にはくまがいる。
くまのぬいぐるみ。名前は「くまちゃん」である。
小学校6年生のとき、井筒屋というデパートでお年玉6千円をはたいて買ったのだ。12歳にとっての6千円はかなりの大金で、たしかその年にもらったお年玉は総額1万円だったはずで、つまり半分以上のお金をだして買ったのが「くまちゃん」なのである。
[アリエル人魚] なめらかな背中の秘密 成瀬巳喜男の映画をめぐって 自分のホームページ開設して以来、少ないが特定の日本の監督作品を連続鑑賞し、ページを作ってきた。今年、生誕100年ということで、数本しか見ていない成瀬監督を、BS放映とフィルムセンター上映をきっかけに続けてみようと思い、勝手な推測だがヨーロッパの香りも多少予想しつつ、楽しんでいきたい。小津、黒澤、成瀬の中では一番好きな監督になるのではないか。
[川上澄子] Polaroid / Landscape 完璧だ。と、私は思った。
 代々木上原を歩いていた。三宅一生の財団が所有するギャラリーを見に行く時、多分、行きの時点でそのヒトは居なかった。
 井の頭通り沿いを寒いわんと思いながら次の目的地に向かう為駅へ急いでいる時、車道と歩道の間の柵に沿っていくつかの段ボールが下敷きになった、銀色のビニールにくるまれた荷物が3つ、整然と置かれていた。多分、ここで暮らしているヒトの持ち物なと思いながら近づいて行くと、3つの内の一番最後の荷物は、一番小さくて、そこには人が向こうを向いて座って居た。ダウンを着込んで、フードもぴっちりと被ったその後ろ姿は、タイヤを重ねた様な、黒いマシュマロマン。だった。
[アリエル・人魚] 正しい映画鑑賞のための17*のポイント 当然の事だが、まず無銭鑑賞をしない事が大切だ。
 一瞬、タダそうに思える試写会、招待券でもゲットのハガキ代は払っている。それでもどうしても無銭鑑賞体験をしたい方は、充分検討後、失敗しないよう映画館に足をふみいれよう。
 どういう理由での鑑賞かを考えてみたい。親にせがまれて仕方なく付き合う。子供、を無理に誘って行く。映画でも見ないと夫(妻)との会話が皆無なので何となく夫婦5割引で行く。生まれて初めての本気恋モードで隣に座れる歓喜を逞しく想像し、大嫌いな監督だが物語まで予習し、映画はどうでも良いワクワク気分でデートとして行く。真昼間、安い料金で暗闇でとにかく眠りたい。大画面を見ながら食事をしたい。など映画鑑賞の理由は多々あるだろう。
[吉田直平] ディアスボラ ユキはだいじなひとが帰って来るので心の表面にさざなみがやまず、いつだっていそがしいひとなのだから、しょせん文字通りの逢瀬、通りすがりの短いキス、すれちがいざまの慌ただしい抱擁にすぎないのだしと力なく言い聞かせるのだが、やはりいっこうに落ち着くことはなく、今までにいっしょにいられた時間は最長でも8時間で、ラブホテルのサービスタイムで過ごしたその一日も――タッパウェアにサーモンのマリネだのアボガドのサラダだの、あのひとの好きな胡麻豆腐だの蝦しんじょだのを詰め込み、
[夕暮]トワイライトノート とろけるような藍色をした、闇の底に立っていた。
しんしんと沈む夜の気配がなかったのでそこが夢だと気付いたものの、とりあえず何をしてみようもなかった。自覚ばかりが鮮明で目的もテーマも伴わない、不自然な夢の天はひたすらに穏やかで、星ひとつ瞬いていない。遠く交わしたきりの約束を形にするためにここにいるようにも思ったけれど、夢ではどうしようもないと自分を罵ろうとしたら、何故だかひどく喉が痛んで。
[須藤ナツエ] 夢述/疾走する獏 歓楽街の片隅にその店はある。桃色のネオン看板が安っぽく光る風俗店だ。私は灰色のリクルートスーツを来て面接に行くのだが慣れない靴を履いたせいかどうにもこうにも浮き上がってしまう。浮き上がらないように注意して歩くも、やはり五センチ程度浮き上がってしまう。
裏口から入ってすぐの事務室に人事担当の男がいて、
[追悼・Jaque Derrida]
世代的な区切りとして
 ジャック・デリダを追悼するということは二つの意味で難しい作業だ。
まず、私は熱心にデリダを追いかけてきた読者ではないという理由がある。デリダは、1990年代以降、政治への発言を積極的にはじめたとされるが、私は現在にいたるその時代の著作をほとんど読んではいない。
涙で文字が読めない 哲学者が死んだ。俺にできるのは引用ぐらいしかない。
〔以下、『盲者の記憶』(みすず書房)より〕
――哀願と慨嘆、 それもまた眼の経験だ。 私に涙のことを語るつもりなのか?
――そう、もっとあとで。涙も眼についてなにごとかを語るが、それはもはや視覚とは無縁だから。
[キムチ] アグレイブ、イラク、2004年。 2000年に発行され、2001年9月11日後の世界を予測したかのような記述が話題となった『帝国』の著者、マイケル・ハートとアントニオ・ネグリの新著『マルチチュード』がこの夏に発行されようとしている。『帝国』は昨年日本でも発刊されて一部で話題となった(『<帝国>』、以文社)が、『マルチチュード』の翻訳も既に進んでおり、アメリカでの発刊にそう遅れずに日本でも読むことができそうだ。
[石川カヲル] しましまの日々
 まとまった休みがとれたので南のほうの島へ行く。リアス式の海岸線が美しく、ささやかな漁港がある小さな島。水色や翡翠色をした透明度の高い波がうねり自然のままのにわきでる茶褐色の温泉があるところ。
 静けさを生むあたたかさをもとめて。
[税所たしぎ] リーズン
 もしもわたしがあの人だったら、あんな野暮ったい格好しないだろう。あんな安物の家具や趣味の悪いカーテンなんか買わないだろう。実用本位の銀色のベンツなんか乗らないだろう。そういうことを折にふれ真綿にくるんだ物言いで言ってやっているのに、あの人はそういうわけにもいかないのだということを、ぼそぼそとしたいかにもあの人らしい口調で言い返す。
[吉田直平] カザハナ  瓶の底のよどんだマーマレードのようなオレンジ色のたゆたいに眼を凝らすとき、いつも佇立しているぼくの若い従姉の記憶。薄青色に透ける肌をしていた。その額におちた髪の長さも色も(やや緑がかっている)はっきりと思い出すことができる。濃い眉の下の眼がちんばだったことさえ。まばらでふぞろいの睫毛。むかって左の頬骨に小さな茶色いそばかす。下唇を突き出した得意の表情(怒っているようにも、笑いがはじける寸前のようにも見える)。
[濱さと子] 寒月くんのこと
寒月くんて ちょっと よい
よい よい よい
いかにも 寒月 て 顔してる
寒月 らしい 寒月くん
月夜のイガグリ 栗かのこ
このごろ はやりの おとこのこ
水 金 地 火 木 土 天 寒月
ミルキーあげたら すぐ 噛みしめた
[安宅久彦] 夜がまた来る
 最初にやって来たのは十歳ぐらいの痩せた男の子だった。様子がおかしいのはすぐにわかった。夏だというのに黒の長ズボンをはき、革のランドセルを背負っている。インターホンで、父に面 会に来たといった。父親の名前を聞くと、毛利という。毛利忠彦、と。
 ゲートから検問所までは百メートルほど離れている。白く埃っぽい道の向こうの鉄柵ごしに黒ズボンの細い足が見えた。
[椏月ライチ] みずうみ
 何が恥ずかしいといって、わたしにとって人前で食事をすることほど恥ずかしいことはありません。家族などのまえならば平気でいられるものではありますが、初対面 のかたであるとか、まして真向かいにに異性、とりわけ好意を寄せている男性などが座っていなどいようものならば、わたしはひとくちも皿に箸をつけることなく食事の時間がはやく過ぎていってくれることだけを願ってなんとかその場をやり過ごさねばならないのです。
[税所たしぎ] BIRDCAGE/すずめ
造作やしぐさのひとつひとつを
慈しみ懐かみ抱きたいと願ったところで
あなたはわたしのものにはならない

愛している愛している
一万回十万回百万回繰り返したところで
あなたはわたしのものにはならない

手の届かないありふれた小禽
臆病なさりとて里恋しい小禽
[慧厳] いけいけ、丘神ファイヤーズぅ!
「いけいけい〜け!」「いけいけい〜け!」
「いけいけい〜け!」「いけいけい〜け!」
「い〜け!お〜せ!うぉ〜、とばせ!」
 アンパイヤのプレイコールが掛かるや否や、ベンチの子供たちの流暢な合唱が始まった。
[角田康弘] ファシストはふりかけない
「ねえねえ、朝ごはん、何食べた?」
「ふりかけ」
ほんとは俺、ふりかけ食べてない
今朝は納豆だった
しかし彼女がわざわざ真偽を確かめるほどの話題ではないのをいいことに、嘘をつく
「ねえねえ、昨日の巨人戦、見た?」
「見てない」
ほんとは俺、巨人戦、見てた
しかもテレビで中継しきれなかった分をラジオで補ってしっかり試合終了まで楽しんでた
しかしその事実を彼女が突き止める術がないのをいいことに嘘をつく
[まだいまだ] 朝から何すんねん
『月刊・上方お笑い楽屋ニュース』九月号
去る八月二十三日、十三近くの淀川河川敷で、草野球の試合が行われた。噺家チーム「モッチャリーズ」対吉川興業チーム「大阪ヤローズ」が対戦し、二十四対〇で「大阪ヤローズ」がコールド勝ちした。参加者は両チームのメンバー十八名のみで、あまりにも早朝からの試合で、家族や友人などの「観客」はひとりも居なかった、という。試合時間は三十二分間。「モッチャリーズ」は試合後恒例の反省会を行った。(当事者談)

八月二十三日、午前五時五十五分
「さあ、ゲン直しに乾杯や!完敗に乾杯っ、ゆうてな。。こらっ、お前ら!笑え!あ ほっ!
[中目黒便利店] アジア映像コラム
 さまざまな雑誌で特集が組まれ、新たな旅行のトレンドとなりつつある上海。語学留学中の知人の訪問もかねて旅行に出かけたので今回はその報告を。
【東方明珠塔】 アジア一高いテレビ塔ということだが、本当に大きい。曇りのようにみえるのはスモッグのためで、上の球まで昇ったが視界が悪く、真下の風景しか見えなかった。
[安宅久彦] 内声の政治学
何をそんなに不満そうな顔をしているのだ? お前が欲しがるものすべて、とまでは言わないが、生きていくのに必要なものはすべて与えたはずだ。何が不足なのだ? どこに問題があるのだ? なぜそんなに不機嫌な顔をしているのだ?
[河合マーク] せんせいあのね
せんせいあのね
ほくのとうさんは
しをかくひとてす
かあさんにおしえてもらいました
(とうさんのしはね ほら
みちのところにかいてある
しろくてきれいな
とまれ
のことよ)
[引地正] [検証]戦後50年のベストセラー: 昭和32年のベストセラー
この年3月30日、河出書房が倒産した。負債は7億2,937万円だったという。確かに出版点数は前年より960 点減って14,026点、書籍の実売部数も450万部減って9,438万部、返品率も1%上昇して34%になったが、売上は9億80千万程増えている。29年、30年、31年と続いたような上昇カーブではなかったとはいえるが、出版界に不況要因が改めてあったようには思われない。出版界に統一の機運が出て日本書籍出版協会が発足し、出版倫理綱領が決定されたのをみても出版界が一段と成熟していく機運を見せたようにも思われるのである。
[塚本敏雄] 詩のペデストリアン
 今回は渡辺信二氏の新詩集『もうひとつの鎮魂歌』(本の風景社)が出たことについて。
 渡辺信二といっても知らない人がほとんどだろうが、ぼくがその才能を高く評価する詩人である(偉そう?)。アメリカ文学者でもあり、その領域での著書も持っている。専門はアメリカ詩。また立教大学で英語を講ずる教授でもある。詩人としては
[税所たしぎ] 水色のひと
 地上げ屋や居座り屋でさえ敬遠するような <事件> を何度も何度も呼び寄せる物件、過去に自殺が続いたアパート、家相最悪の店舗、墓場や刑場跡地に立った建物、それらにまつわる死と狂気、事故、犯罪、いわゆるいわく因縁つきの、取り壊しもままならぬ 問題物件。
[高梨 晶] マンガ・ショートストップ
 マンガの中でキャラクターは成長するということをこの作品ほど如実に表しているものはないかもしれない。
 もはや国民的マンガとも言える作品なのでご存知の方も多いだろうが、主人公は山岡士郎と栗田ゆう子。ともに東西新聞社の文化部に勤務し、社の一大企画「究極のメニュー」を担当している。脇役も多彩で、大原東西新聞社主、小泉編集局長、谷村文化部長、富井副部長、板山ニューギンザデパート社長、陶芸家唐山陶山。
[安宅久彦] 濡れたおもいで
そのころは毎日飲み歩いていた。上京して半年でアパートを追い出され、新宿の飲み屋で知り合った女の部屋を泊まり歩いて大学に通 った。新宿ゴールデン街は、戦前から作家や編集者などが集まってくる街だったと聞いている。そのころも、東京の北方にようやく形をなしてきた新都心から出版社の社員などが飲みに来ていて、俺はそいつらから若者風俗についての埋め草原稿を書く仕事などをもらって、飲み代の足しにしていた。
[ナナエ] 17 deadline
 朝のプラットホームで吸い込む空気は氷のようだ。頬が冷たい。この感じが好き。一息一息、私がここでこうしているって感じが。
 またひとつ私の目の前でドアが閉まろうとしている。閉まった列車のドアのガラス越しに目があった女の子は、私と同じくらいの年だろうか。薄暗い水色のマフラーなんて、センスが悪い。思い切りにらみつけてやったけど目をそらさないから、今度は馬鹿なっくらいエガオを向けてやった。そこでおしまい。電車の走り出す鈍い音が私から遠ざかる。なんだか私のここ最近の半年を早送りしてみているようでため息が出た。そして、電車は私と同じように思いっきり冬の音を響かせて、行ってしまった。
[吉田直平] インディアンサマーな生活
 もちろん、じゅうぶん信じられることではあるものの、3人の息子たちがまさに三様であることは、わたしにとってつねに新鮮な驚きの種となる。もっとも、その逆、つまり3人が、さらには妻とわたしを加えた5人が、ちょうどカーボンコピーされた数葉の紙のように濃淡の相似をなしていることに対しても、しばしば驚きを禁じえない。それは、家の中に起居する子供が1人または2人ではなく3人であること、家族が全員で3人または4人ではなく5人であることに対する驚きといえるかもしれない。たまさか子供がひとりしかいない家庭に夕食を招かれたりすると、あまりの静けさにわたしは内心とまどい、この状態はまるで子供がいないも同然と錯覚し、どのようにふるまうべきかを忘れている自分を発見することになる。