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text/ 高梨 晶
 
人の語るところによるとこのマンガ、サイバーパンクである。サイバーパ ンク?ウィリアム・ギブスンとかブレードランナーとか。だって、SFって言うんじゃないの、そういうの。いや、SFと違って設定が全部ウソなんだよ。 だって、SFだってウソじゃないか、光速で飛ぶロケットとか。いや、あれは理論的にはあり得る話であって。いやあるわけないよ。云々。
 
本零士のメカ描写に何を測定しているのか不明なメーターがやたらと書き込まれていたのが70年代、空想は空に舞い上がり宇宙の彼方へ。しかし80年代は大友克洋に見られるように舞い上がった空想は近未来の地上へと着地。描かれるバイクの形状は近未来的だがメカは安易に空を飛んだりしなかった。 そして90年代、士郎正宗の描くメカはサイバネティクス的戦車にマイクロマシニングやコンピュータネットワーク。空想の着地点は時代によって変化して いる。しかしサイバーパンクとSFはどう違うのか。それはSFが「こういうことはあり得る」という前提なのに対して、サイバーパンクは「あるわけがな い、しかしありそうでしょ?」というスタンスをとっていることだ。サイバーパンクはテクノロジーの限界が見え始めSFの想像力が空高く舞い上がれなく なった状況を打破するためのカウンターの意味を持っていたのだろう。

殻機動隊では欄外に世界観を補足するための書き込みがあり、ストーリー展開に重要な役割を果 たしている。これは著者、士郎正宗が冒頭で断っている ように「すべて架空の産物」だ。例えばコンピュータチップの形態についての説明を見てみよう。これを世界観として受け入れられるかどうかが、攻殻機動 隊を読む際の踏み絵になっている。

「これは1998年、播磨研究学園都市で創られた成長型ニューロチップを 5万倍に拡大したもの。過剰成長で細胞が死にかけて、各所で神経繊維の断裂が見られる。ポリスチレンに乳糖(ガラクトース)をのせた誘導体などで構成 される端子にまで繊維が成長し、端子を印刷してある薄膜を歪ませている。……」

 
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者士郎正宗について。マンガよりもイラストの仕事が最近は多いらしい。濃いアニメ絵とメカを得意としている。攻殻機動隊以外では『アップルシード 』『ドミニオン』『オリオン』が出ていてすべて読んだ。しかし、攻殻機動隊は初のメジャー誌登場ということもあるのだろうか、他の作品とは出色の出来 である。格が違うと言ってもよい。押井守によって映画化されたあとはプレイステーションでゲームになり、音楽もプレステ版は石野卓球、映画版は川井憲次と興味深い人選で話題に。アメリカでは特に人気で1997年のシアトルではGhost in the Shell(攻殻機動隊の英題)と描かれたTシャツを着たオタク ボーイたちを多数見かけたのを覚えている。

 さて、ストーリー。時は2029年、脳だけ生身の人間でボディはすべてサ イボーグという主人公、公安9課草薙素子少佐がテロリスト相手に大暴れしちゃうぞ、というもの。過剰に構築されすぎたコンピュータネットワークのカオス から生命に似た現象が発生し云々……というのが一応テーマではあるが、そんなことにはお構いなく読み進める方が面 白い。近未来の武器やメカ、乗り物 (フチコマという思考戦車がとてもかわいい)、そしてアクション。どれも映画のようにスピード感あふれていて、一気に読める。読後、欄外の解説だけを 読んでもいいし、緻密に書き込まれた絵を眺めながらページをめくるのも楽しい。初めて読んでから10年たったが、今でも読み始めると止まらない。この4月には続編『攻殻機動隊2』が出る。実に10年ぶりである。是非読んでほしい。ただ、先に引用したような世界観とアニメ絵を不快に思わないならば、だが。 (高梨・A・晶)

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