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text/キムチ

金原ひとみが描く世界は、
その素材(アイテム)にも関わらず
むしろ常識的であり、
それを描く筆致もあわせて
不良のものとは言えなかろう。

たまにはイマドキの小説も読んでみようと思って、「文藝春秋」を買って、第130回芥川賞受賞の二作品を読んでみた。最年少受賞で話題となった金原ひとみの『蛇にピアス』と綿矢りさの『蹴りたい背中』である。作品に文句をつけるつもりはさらさらないが、意地悪かもしれない言い方をすれば、不登校とパチスロの日々を送る不良と、優等生だがクラスになじめない文学少女の二人がいかにも書きそうで、その意味でも耳目に入りやすい小説ではないかという気がした。作家とその作品のカップリングの齟齬のなさが物足りなく思うのである。

では作品そのものに即して言えばどうなのか。特に金原ひとみの『蛇にピアス』は、評者の高樹のぶ子が「おそらく作者の人生の元手がかかっているであろう特異な世界を実にリアルに描いている」と書く作品であるが、山田詠美は「良心あると自認する人々(物書きの天敵ですな)の眉をひそめさせるアイテムに満ちたエピソードの裏側に、世にも古風でピュアな物語が見えてくる」という。そのとおり、金原ひとみのしっかりとしとした描写が描く世界は、その素材(アイテム)にも関わらずむしろ常識的であり、それを描く筆致もあわせて不良のものとは言えなかろう。

例えば、主人公が、スプリットタンに曳かれて一緒に暮らし始めた恋人のアマの友人で、彫り師でSのシバさんとセックスする次の場面、

シバさんのチンコには血管が浮き立っていた。
「濡れてんの?」
 小さく首を縦に振ると、シバさんはまた私を抱き上げ寝台に座らせた。私は無意識に足を開いていた。軽い緊張が私を包む。Sの人の相手をする時、いつもこの瞬間私は身を固くする。何をするか、分からないからだ。浣腸だったら良い、おもちゃもいいし、スパンキングも、アナルもいい。でも、出来るだけ血は見たくない。昔、膣にファイブミニの瓶を入れられ、危うくトンカチで割られそうになった事があった。後、針とか刺す人も苦手。手首から手の平がじっとりしていて、肩から二の腕にかけては鳥肌が立っていた。シバさんは、物を使う気はないらしく、私はホッとした。シバさんは指を二本入れ、何度かピストンさせるとすぐに引き抜き、汚い物を触ったように私の太股に濡れた指をなすりつけた。

「私」は濡れているが、Sであるシバさんが何をするか分からないことには身を固くする。「私」の反応はごく常識的なものだ。「私」はMだと自称するが、SであるシバさんとSとMであることにおいて交感しているとは言えないだろう。「私」と結婚することを望み、Sで、「男でもイケる」というシバさんは、怒り出すと何をしでかすか分からない相当厄介な男かもしれないアマをレイプして、惨殺した犯人であるかもしれないことが小説の終わり近くで暗示される。しかし最後に「私」は思う。「シバさんは、もう私を犯せないかもしれないけれど、きっと私の事を大事にしてくれる。大丈夫、アマを殺したのはシバさんじゃない。アマを犯したのはシバさんじゃない。……私には、そんな根拠のない自信が芽生えていた。」主人公は、相当ヤバイかもしれない人物たちと交わり、かなりヤバイ生活を送っているけれども、そんな彼らの純真を信じることが彼女の生きる力なのである。山田詠美に「ラストが甘いようにも思うけど。」と書かれる所以であり、良識の人には喜ばしい限りであろう。
ただしかし、

「お願い、早く入れて」
 うっせーな、シバさんはそう吐き捨てて私の髪をつかみ、枕に押しつけた。シバさんは私の腰を高く上げるとマンコに唾を吐き、また指で中をグチャッとかき混ぜるとやっとチンコを入れた。初めからガンガン奥まで突かれ、私の喘ぎ声は泣き声のように響いた。気づくと本当に涙が流れていた。私は気持ちいいとすぐに涙が出る。満たされていくのが分かった。シバさんは突きながら私の手首を縛っていたベルトを外し、私の手が自由になると勢い良くチンコを抜いた。抜かれた瞬間、また一筋涙がこぼれた。シバさんは私を上に乗せ、私の腰をつかんで揺さぶった。マンコ一帯がシバさんの肌と擦れて痺れていた。
「もっと泣けよ。」
 シバさんの言葉に、また涙が伝わった。私は短く「イク」と呟き腰をガクガクと震わせた。

というあたりの描写のスピード感は小気味良い。繰り返されるマンコとチンコの乱暴なリズム感が悪くない。願わくば、「気づくと本当に涙が流れていた。私は気持ちがいいとすぐに涙が出る。満たされていくのが分かった。」という部分を削ってほしかった。

    
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