●今年度の日本シリーズは、巨人が驚異的な強さで、西武に四連勝して幕を降ろした。新人監督同士の戦いという新味な面白さと共に、リーグの中では圧倒的な強さを誇ったチーム同士ということもあり、シリーズ前の評論家の予想も「混戦」を示唆したものが多かった。

●現行のドラフト制やフリーエージェント制を続けた結果、平均的に潤沢に高額年俸が支払える球団に、優秀な選手や成績の良い選手が集まっていることは、事実として否めないであろう。

●しかし、その制度と今シリーズの結果を因果関係として短絡的に考えることは、それぞれ別の次元の問題として控えたい。現行の緒制度に問題があるとすれば、それは掛かる機関の中で協議検討されなければならない。パリーグの優秀な投手がセリーグや大リーグに流出したことも事実で、当然今後も野手を含めて流出が起こることは明らかである。

●それよりも、この日本シリーズが、今シーズンの西武の圧倒的な強さ、伊原新監督の芸術的とも言って過言ではない采配への評価に影響を与えかねないことを危惧する。日本シリーズという短期決戦で勝ち抜くということはそれだけ困難なものであり、その意味では当然巨人の指揮を執った原監督は大きく称賛されて良い。

●しかし、日本シリーズでの四連勝(四連敗)が、リーグ優勝の評価に影響を与えてしまうであろう危険を感じる。特に「憎し巨人」とまで公言してしまった伊原西武の、シーズン中の相手に一分の隙も与えず、大胆にそして繊細に攻撃の手を休めない戦いは、長く記憶されてしかるべき内容であった。シーズンを戦って、リーグ優勝を成したことへの評価に、日本シリーズの印象が加味されてはいけない。

●投手の防御率や内容を両リーグで比較し、セリーグの投手が勝っているのは承知の上で、パリーグの野球には独特の面白さがあることを主張したい。その面白さが正確に広く伝わっていないことも事実である。

●他のどの球団よりも悪い防御率でリーグ優勝を果たした、昨年度の近鉄の野 球などはその典型であろう。

●野球は「投手に始まって投手に終わる」と言われる場合が多いが、正にこのシリーズでは「松坂に始まり松坂に終わっ」てしまった。被安打数もそうだが、四死球による出塁も西武にとっては誤算であった。

●しかし、それでも「柔よく剛を制」すことが出来るのも野球であると信じたい。年俸や諸制度、リーグ間のルールの違い、などの「政治」を超越して、グランドの上では全く同等の立場と条件で戦うことのできるのが野球の素晴らしい点である。8月16日には、松坂が近鉄に与えた9点差を大逆転し、12対10で勝ち、優勝へのマジック「34」を初点灯させたのも西武であった。

●野球界全体の将来を考える上でも、今シーズンを制し、日本シリーズで貴重な四連敗を喫し、結果的に緒問題を提起することとはなったが、西武の今年度の強さへの評価がいささかも低まらないことを願う。

※朝日新聞社からの没採用手紙(引用) 
秋冷の候、お変わりなくお過ごしのこととお喜び申し上げます。 
いつも朝日新聞をご愛読くださいましてありがとうございます。このたびはオピニオン面の「私の視点」にご投稿いただきましてありがとうございました。
投稿は1日に相当数が届きますので、みなさまがたのご要望になかなかお応えできないのが実情です。今回お寄せいただいた原稿につきまして、検討させていただきましたが、上記の事情などから見送らざるを得ませんでした。大変、申し訳ございませんが、どうかご理解たまわりますよう、お願いいたします。また、検討に日をかけまして連絡がたいへん遅くなりましたことを併せておわび申し上げます。
これからもみなさまのご意見をいただきながら、多様な「視点」が反映する欄にしていきたいと思っています。今後とも朝日新聞、「私の視点」欄をどうぞよろしくお願いいたします。 
2002年11月 
朝日新聞大阪本社 
報道プロジェクト室「私の視点」係 
大阪市北区中之島3-2-4 
電話 06-6231-0131(代) 
ファクス06-6231-0916
(引用終わり)


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