○中学に入ると急にアチラ方面の妄想が大きくなり、晩の11時頃になると布団をソウと抜け出し「11PM」をこっそりと見る。イソノエイタロウという風俗ライターが、様々な性風俗店を紹介していたが、どのようにすれば「風俗ライター」になれるのかが目下の関心事であった。小学校時分の興味は仮面ライダーであったが、中学生には「風俗ライター」なるものに不思議な魅力を感じていた。

○今から考えると両親や兄・妹も居たわけだし、11時に寝ていたわけでもないと思うのだが、どうしてかわしていたのだろうか。テレビのリモコンも無く、そのためのすぐにチャンネルを替える特殊な技術があったのやも知れない。足で回すとか。

○「11PM」は大阪では10チャンネル(日本テレビ系列の読売テレビ)で放映していた。親が小用に起きてきた時などは、チャンネルを咄嗟に回して8 チャンネル(フジ系列の関西テレビ)に合わせなければならない。うかっと間違って反対に回し12チャンネルになると、NHK教育放送になる。夜深に部屋を真っ暗にして、こっそり教育放送を見る息子を見て、親もさぞかし情けなかろう。

○以前はゴールデンタイムの番組でも、いきなり日活ロマンポルノ風の1シーンが5秒間くらい流れることがあって、茶の間で団欒している一家にとっては中々の試練であった。拙宅では、祖母をはじめ一家全員の六人が凝視しているのに、全員が黙って見ていないフリをした。

○友人のT家に遊びに行くと、そういう時にはそこの父親が、「おおー!」「ええケツしてるやんけ!」「見逃すなよ!」と子ども達に声をかけていた。男子ばかりの三人兄弟で祖母無し家族とはいえ、中々にオープンであった。そしてそれもある種の教育だったのかも知れない。

○拙宅では、芸能人の水泳大会などでポロリがかなり続出しても、全員が意識しながらも無視を演じて普通に筑前煮を食べていたりする。司会役のおりも政夫の声がニンジンとコンニャクの間を軽々しくすり抜けた。

○大阪のグランシャトー筋によると、京橋は充分にええ所の様だ。1976年に高校生になると、わざわざ京阪電車に乗って京橋のビニ本屋へ行った。駅前ビルの中途半端な二階部分に様々なビニ本が並んでいた。

○当時で一冊二千円弱支払って、帰宅してからビニールを剥がす。オ△コ(注1)の辺りが油性の黒マジックで丸く塗られている。何がなんでもオ△毛だけでも見たいという一心であった。

○かかる部分の油性黒マジックをうまく溶かすには、バターやマーガリンが有効であるという不確かな風聞を聞いた。冷蔵庫からバターのケースを取り出し、バターナイフで小さな固まりを掬い、ティッシュにくるんで自室へ運んだ。

○ティッシュで包んだバターをかかる油性黒マジックにヌスくり付けて、中指で丸くコスった。これがなかなかうまくゆかないのであるが、ようやくバターが除けたと思ったら、油性黒マジック「●」のひとまわり小さく印刷された黒「■」が現れた。

○大学四年の夏休みに「短期留学」と称して米・バークレーに一ヶ月遊びに行った。公園の横に「XXX」と掲示された成人映画館があった。「XXX」とは全部丸見えの映画のことだったと思う。

○小心者の日本の大学生は、時間が空く度にここへ通った。しかしアメリカ人には我々は明らかに子供で、「成人」とは思われず、証明がなければ入場が叶わないのであった。我々は映画の券を買う度に窓口でパスポートを出す。アメリカのおばちゃんは泣きそうな顔で券を呉れた。

○翻って今は、週刊誌でオ△毛が氾濫し、ネットでオ○ンコ(注2)が拝める時代になった。果たしてそんなに自由になって良いのであろうか。そういうものは表だって見えてはイケナイのではないだろうか。見えなくても見たい奴は見るし、どの時代にも見る仕組みは存在する。

○赤線や青線が廃止されても、廓や女郎小屋が廃滅するワケでもないし、規制があってもなくても行きたい奴は行くし、行く場所は常に存在する。

【獏の半生】
詩=岸本康弘

少年期
崇高なロマンの翼を生やしてしまった
そして
度々生活の目を盗んでは
翼をひろげて世界の町を浮遊した
年を食むのを拒んだ少年は
あちこちの街角で
やさしそうな姉さんに微笑まれて
麻薬のように幻想を吸うのを覚えた
きっと姉さんたちは
老いない病身の少年を
去勢された雄犬でも抱くように愛撫したのだろう
それでも少年は時には台頭する男を
恥ずかしげに撫でていた
周りの猛猛しい男たちに合わせて卑猥な言葉を吐きながら
世と付き合う術を学んでいた
その世の中も大したものではなく男たちが束になって殺し合いを
繰り返していた

半世紀を経ても少年は少年で
他国の密かな自室で
姉さんたちに囲まれて
まだ幻想を食もうとしている
時には自己を嫌悪しながら…。

(注1) △=「メ」  (注2)○=「マ」

2004年12月6日号掲載


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