●落語には既に3〜400年の歴史があり、その時代と共に隆盛を繰り返してきました。現在では、東京・大阪に合わせて700人以上の落語家が居り、小学生に落語ブ−ムが起きたり、大阪にも常設の寄席が計画されたりと、一時に比べればまた落語流行のきざしがあります。

●また、最近では韓国語や中国語で落語を演じる落語家も登場し、二代目枝雀さんが道を切り開いた落語の国際化が確実に形になっています。

●落語の面白さ、楽しみ方は無限にあります。座布団の上に着物を着て正座した噺家が喋るオハナシの展開、抑揚の付け方、仕草には思わず、創造力を総動員してその世界を浮かべてしまいます。扇子(風)と手拭い(曼陀羅)だけで全ての環境、セット、大道具・小道具の表現をし、その世界を創りあげてしまいます。落語は世界的にみても比類のない、アホらしいながらも高尚で豊かな芸能なのです。

●一方でビジネスの現場では「七人の敵」どころか、社内外の四方八方にライバルや敵のいる世界だと言われています。企業によっては、各種の資格をとらないと昇進や昇格の対象そのものにもなれませんし、英語が出来て当たり前とも云われているようです。

●『百年目』という落語は、御店(おたな)では堅物の大番頭(一番番頭)が、派手に遊んだ姿を大旦那に見られ、翌日「見つけられたら百年目」となるはなしです。商家の番頭さんというのは、今の会社では常務さんとか専務さん、ということになるだろうと思われます。

●この番頭さん、夜遊びをする若い者を叱るときには「私は、お茶屋の梯子段向こうむいて上がったことはないし、芸者というシャ(紗)は夏着るもんか冬着るもんか、舞妓という粉は一升なんぼするのんか、太鼓持ちというモチは煮て食うたら旨いのか焼いたらええのんか、一口も味おうたことがない」とまで言うお人です。

●しかしこの番頭さんこそが、本当は色街では有名な粋な遊び人なのです。最前から若い衆に小言をしていたのもお茶屋、芸者、幇間、その他遊び仲間一統と大川(淀川)の屋形舟を借り切って花見酒を飲む仕切りになっているための方便ではあったのです。お茶屋筋では極く粋(すい)な「ツギサン」として、金払いも良い「夜の社交」の人であった訳です。

●駄菓子屋の二階に箪笥が置いてあって、そこで木綿のお仕着せを脱いで着替えます。肌襦袢は、目の細かい天竺金巾(かねきん)に、八王子のイリのかかったもの。その上から着る長襦袢は京で別染にさせた、鶯茶に大津絵の一筆描を散らしたごく粋(すい)なもの。それに薄綿の入った着物。帯から羽織の紐に至るまで一分の隙もない。細鼻緒の雪駄で出掛けます。

●サラリ−マンの場合、会社の仕事中を「公(人)」の時間だとすると、会社を離れた自分は「私(人)」の時間領域だと言えます。タイムカ−ドを押して切るまでの間が公の時間と一応は分けることができます。

●しかし、夜の飲み屋で交わされている会話を見ると、会社の話、仕事の話で盛り上がっている場合が多いようです。仕事の愚痴、上司の悪口、社内の女性問題など。会社の人間と飲みに行った場合、話がそのように展開するのは仕方のないことなのかも知れません。

●『百年目』の大旦那は、番頭の乱交を見た翌日、「遊ぶ時には使い負けせんように」しないと、言います。そうしないと、いざという時に商いの切っ先が鈍る、という物分かりの良い商売人です。

●夜通しかけて店の帳面(帳簿)を調べあげ、番頭に一切不正なことのないことを知った上で、「遊びなはれ」ということです。

●大旦那は、「びっくりするような銭も使えばこそ、びっくりするような商いもできる」と言い、「沈香も焚かず、屁もこかず」と言います。人間としての振幅の幅の大きさは偏っていては駄目だといいます。せいぜい遊びも知っていないと、大きな仕事もできないということなのでしょう。

●『足上がり』という落語の旦那も、「仕事の合間にちょっと芝居を一幕覗くくらいはさまで咎めなくてもよいことかもわからん。お得意さんと応対してて芝居の噂が出て相槌ひとつ打てんようでは困る」という考えを持っています。

●『百年目』の大旦那は、「旦那(檀那)」という言葉のの謂われを言います。天竺の国にあった赤栴檀という木と難莚草という草との関係です。赤栴檀のネキに生える難莚草は、赤栴檀の木の養分を得て生きています。

●一方赤栴檀は、朽ちた難莚草を主要な養分として生きている訳です。一種の共生というのでしょうか、どちらか片側が駄目になってもいけない。お互いに「先にする」心で共に生きています。この難莚草の「難」と、赤栴檀の「檀」で「檀難=旦那」となります。有無(うぶ)は相持、という訳です。※昨日、上方落語界の大御所、桂文枝氏が亡くなられた。三枝会長が尽力している、天満繁昌亭のオープンを楽しみにされていたことと思う。ご冥福を祈念します。

2004年3月14日号掲載
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