○野口晴哉の名著『風邪の効用』は割と最近文庫化されたように思う。確か単行本は全生社の上梓だったか。野口整体は、野口晴哉一代のもので、その後にも先にも誰も「野口整体」は実施できない。

○野口晴哉は、風邪は風邪の菌による身体への悪さなのであるが、それには「効用」がある、という。つまり風邪をひく理由には意味と意義があり、それが分かれば「効用」に気付く筈である、と。

○単行本の時代に一度読んだだけの理解でしかないが、風邪を引いた場合のリンパの異常、発熱、又それに伴う諸症状を対症療法的に治すべきではないという書である。諸氏よ、これもトンデモ本に入るのか。

○風邪は身体へのひとつの警鐘であり、信号である。某ベンザや某ルル、某改源等によって無理矢理治そうとするのではなく、葛根湯や卵酒を飲み、一日中ぐるっと寝て過ごすのが最良である、と。当然野口晴哉の本にそういうことが書いてある筈はない、が。

○江國滋の辞世「おい癌めくみかはさうぜ秋の酒」も、癌細胞も自分の内部にあるものとして、達観し開かれた世界を詠んだ。身体を殺すと己も死ぬのに莫迦な奴だ、そんなことよりも一緒に酒でも飲ろうや、という達観に不治の病から解放される糸口がある。

○鼻風邪や咳風邪などと世間は風邪をタイプ別にして、風邪薬などもそうした症状別に別れていたりする。対症療法の最たるものの典型である。風神はいつから風邪の神さんになったのであろうか。「風の神送り」という落語があるが、風邪は無理にルルるのではなく、風邪の神さんにはどうか退散願います、とお願いするのである。

○落語では藪医者の語源も分かる。風で騒ぐので薮である、という。腕が悪いと普段は誰もそこへ治療に行かないが、風邪は蔓延するので、良い医者にはすぐにかかれない。風邪の治療で大事には至らないから腕の劣る医者にもかかる。風で動く、風で騒ぐので薮である、という。

○とまれ、笑顔が大事であるというのは、落語も然りであるが、音楽家で音楽運動療法士の野田燎氏の方法論を見ても明らかである。音楽家である氏の身体刺激法は、よく考えれば当たり前なのであるが、「つなぐ」ことの大切さを改めて知らされる。そして人間にとって笑顔を思い出すことが一番高級なことであると分かる。神経と神経、人と人、そして意識と意識、我々はつながっていなければ生きてゆけない。野田燎氏こそが薮医者からはもっとも遠い真の医術者である。

○薮が風で騒ぐのも良いが、日本脳炎を運ぶコガタアカイエカの話は今は昔なのであろうか、中々聞かなくなった。同種の蚊そのものが減少したのかも知れないが、それ以上に人間の免疫能力は低下しているものと思われる。少子化が功を奏したか。

○椎名誠は、蚊柱体験を基に蚊の科学本を上梓する予定であったが、果たして『蚊學ノ書』を上梓した。今では書店に諸家による諸蚊科学参考書が斯くも多数並ぶのであった。キンチョーは当然大阪の会社で、社名はその名も大日本除虫菊株式会社と云うのであった。蚊取り線香は夏の風物詩であるが、季語にもなっているのであろうか。「ルーチョンキ 逆さに読めば キニョチール」

○キャンプやアウトドアのレジャーも流行していて、防蚊(ぼうぶん)グッズも売っている。大阪では蚊に「噛まれる」と云い、「刺される」とは云わない。ムヒやウナも良く売れているので、皆カユイのが嫌なのだろう。自慢ではないが小拙は自息に睾丸の北京ダック(皮)を噛まれたことがある。その時は痒くならずに出血を見た。

○良く考えてみると「カユミ」は自分一人では作り出すことは困難である。痛みやその他の不快感などは傷つけるなどして自分でも作り出せる。ひょっとしたらカユミというものは中々に貴重なものなのではないか。蚊に噛まれて、掻く時の感覚はある種の快感なのかもしれない。ビリケンさんの足の裏も、撫でるのではなく、掻くのが正解なのであった。

○小拙は誰も蛭に噛まれてのたうち回るのが人生だ、と云っている訳ではなく、一寸の虫にも魂があり、夏の風物詩、蚊を楽しむ余裕が欲しいことをマニフェストしている。蛍を愛で、オオムラサキに陶酔できることを発明した日本人ならば蚊と共生することも可能になるのではないか。

○第一歩として、満漢全席にもある「蚊目玉スープ」を食す。夕刻の公園や土手で発砲スチロールを擦ってコウモリを落とし、鳥かごで飼う。餌に生蚊を与え、糞を洗い流せば蚊目玉がとれる。結婚式なども、蚊を食すことによってはじめて華燭の典と云えるのではないだろうか。

○噛んでもらい、カユミをもたらしてもらい、なおかつ食させて戴く。カソの村にはビニールハウスで蚊の養殖と蚊狩りで村興しだ。村役場には蚊課(ぶんか)課長職が出来、「宅の主人、文化に携わる公務員ですの」と嫁が勘違い。

○こうなっては蚊を蚊と呼び捨てになどできない。蚊さん、蚊さん、蚊さんお肩をたたきましょう。ってどこに肩があんねん!

2005年11月7日号掲載
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