今年もまた7月3日がやってきた。
 ロックをラヴ・セックス・デスという最大のキャッチ フレーズで語った詩人 ジム・モリソンがパリに消えて早、四半世紀。まさに我々が想像するスキャンダラスなロック スターそのものであったジムも生きていれば、なんと59歳!になる…

 ジムはロックの持ち得た最大の遺産の一つであり、音楽、ことにロックと関わることが常に死と隣り合わせの危険な闘いであることを体現した象徴的なミュージシャンだ。そして、音楽が単なる娯楽の対象ではなく、芸術や文化あるいは生き方までもリードしうる可能性を、世界中のロック ファンに気づかせたアーティストでもあった。

 ジムのいたドアーズが英国公演を行った際、イギリスの音楽ジャーナリズムは、ドアーズとビートルズを同格に評し最大級の敬意を払ったのである。

 ところで、今年のサマー ソニック'03では、ザ ドアーズが'67年の結成以来、初めて日本の地を踏む。もちろんそこにジムはいないが、それでも長年のファンはジムの幻影を感じることが十分、可能だろう。

 '69年7月3日、ローリング ストーンズの最初のリーダーであった男がオーヴァー ドーズ(薬物過料摂取)によって自宅のプールで沈んでいた。ハイドパークで行われた彼の追悼フリー コンサート(かのオリジナル キング クリムゾンが驚異のデビューを飾った件のコンサートだ)で、葬送の詩を朗読したジムもまた2年後の同じ日、かの地へ旅立ったのだった。

 20歳で詩作を終え、アフリカに渡って奴隷商人をしていたと噂される天才ランボーをこよなく愛したジムもまた、無名であることを楽しむように唐突に人々の前から姿を消した。その死体を確認した妻 パメラもまた後を追うように亡くなったため、熱烈なファンはジムがまだ生きているとかたくなに信じている。

 我々、ロック ファンはその前年'70年9月にジミ・ヘンドリックス、10月にジャニス・ジョプリンという天賦の才能を失っていた。ジムの死はまさに地獄の季節であった'60年代ロックの終焉を告げる出来事だったのだ。



[猟盤日記]
パリに消えた
MR. MOJO RISIN'(前)

w r i t e r  p r o f i l e




今回の推薦盤
The Doors『L.A. Woman』


エレクトラ

●ジムの遺作。A面とB面(CDではこういう言い方はしないけどね)の最後の大作(7分強)が素晴らしいキメを連発する傑作。表題曲の「L.A.ウーマン」の中で象徴的に繰り返される ♪ MR.MOJO RISIN’ ♪ というフレーズはJIM MORRISONのアナグラムである。

●ジムの生前に制作されたドアーズのオリジナル アルバムは全部で7枚(1枚はライヴ アルバム)しかなく、そのどれもが傑作であるが、この作品の最後を締めくくる「嵐のライダー」は、彼らの作品の中でも屈指の名曲だ。筆者がドアーズの作品で一曲、選ぶとしたら間違いなくこの曲を推す。7枚のアルバムから1枚を選ぶのであれば、これはもうデビュー アルバムに間違いないのだけれど…

●その静から動への見事な構成は、モノクロームの画面が色づいていく瞬間を垣間見るような音響的グラデーションでリスナーを捕捉する。円熟味を増したジムのヴォーカルは実に表情豊かであるが、それがいっそう、その後の自身の死をも預言するかのような鬼気迫る凄みを感じさせる。まさに入魂の一曲に仕上がった。

●モーツァルトがかいた「レクイエム」が結局、自分自身のそれになったように、ジムもまた、この曲によって自らを鎮魂する運命だったのだ。

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