10月11日東京ドームでのワン ナイト トーナメントによるワールド グランプリ決勝出場の 7強が出揃う大阪ドーム大会。いわば、トーナメントを占う上で非常に重要な大会のはずなのだが、その内容はお粗末の一言に尽きた。

 問題は、K−1がK−1であるためのアイデンティティを自ら放棄している点である。K−1はそもそも、ルールの公明正大さ、分かりやすさ、そして真剣勝負が前提となった迫力で今日の地位を築いた。そこには故アンディ・フグのようなスター選手の輩出もあったが、本来、K−1のスターは作られるものではなく、スリリングな真剣勝負の中から自然に生まれるものであったからこそ、ここまでの水準に到達できたとも言える。

 ところが石井和義 正道会館々長(当時)が脱税疑惑により逮捕されてからと言うもの、そのアイデンティティとは別の意思がK−1を支配し始めたのである。興行性を重視するあまり、ボブ・サップのように人気だけで実力の伴わない選手やフランソワ・ボタのような話題先行型の選手を、ルールを無視してまで決勝トーナメントに残そうとし、その判定に中立性を欠いたことは正に致命的と言っていい。

 セミに登場した元IBF世界ヘビー級王者フランソワ・ボタは、1回19秒、倒れた相手の顔面への右アッパー、野獣ボブ・サップは2回1分20秒、相手を押し倒した上に右パンチを振り下ろし、どちらも反則負けの裁定となった。

 ボタの反則は、なれない下半身への攻撃によって錯乱した末のパンチであったように思う。ゴング直後のボタのたたずまいは非常に雰囲気があり、かなり期待できただけに残念だが、反則負けの裁定は妥当なものだ。問題は相手のシリル・アビディである。ボタの攻撃はしりもちを着いた相手へのアッパーであり、これは有効打と考えてもいいと思う。しかし、この一撃でアビディはすっかりビビってしまったらしく、その後、一切、ボタの方を見ようとしなかった。

 筆者の周りのファンも最悪だった。“帰れー 2度と来るな!”といった野次が飛んでいたが、あの場合“生きて返すな!”が正解だろう。筆者は思わず“逃げるな! K−1!!”と怒鳴ってしまった(苦笑)

 サップの反則はボタに比べるとさらに問題が大きい。それはどう見てもサップの反則が故意だからだ。今回のKO負けはサップ ブランド暴落を意味する。しかし、下手に頑張ってケガでもしたら2日後の新日本の東京ドームでの試合に穴をあけてしまう。頭の良いサップはそれを一瞬のうちに計算して、あのような反則暴走に出たのだろう。

 アメフトまがいの突進と張り手で相手を押し倒し、一瞬間が開いてのパンチは、考える時間が十分あっただけに完全な故意と言える。また倒れている相手を上から殴っているため、マットで後頭部を強打している可能性もあり、反則としても非常に悪質な部類に入る。この時点でサップは昨年来の貯金を全て使い果たした。

 この二つの反則がセミとメインという重要な試合で立て続けに起こったのだから事態は深刻だ。これは人気選手を重宝した結果、K−1全体のレベルが確実に下がっていることを如実に表している。

 また、ボタとサップはほぼ同じ反則を犯しており、ボタが反則負けであれば当然、サップも考えるまでもなく反則負けであろう。ところが、K−1審判団はサップの相手、ボヤンスキーの状態次第では、試合を続行させようとしていたのである。その裁定が普遍性を欠いたことで、K−1はその高邁な精神性をも手放したと言って良い。

 また筆者を暗い気持ちにさせるのは、いわゆるK−1ファンのレベルが低すぎることだ。筆者は新日本プロレスの会場でも同じ居心地の悪さを感じたが、つまりはブランドとしてのK−1、ブランドとしての新日本のファンであることで、自分達も他団体のファンよりグレードが高いと錯覚している勘違い野郎がやたら多いのである。

 そもそも、本来のK−1のファンにとって、ボブ・サップは明らかに外敵である。何故なら、ボブ・サップの強さは、K−1が10年の歳月をかけて完成させた立ちワザ最高峰のテクニックとは全く無縁の地に存在するからだ。ボブ・サップの素人同然のしかし当れば威力だけは抜群のパンチと2002年の時点ではあのアーネスト・ホーストの打撃ですら通用しなかった強靭なフィジカル コンディションは、そもそもK−1とは一切関係がない。

 K−1の迷走を救うのは果たして誰なのか? 奇しくも10年目の節目を迎えた記念すべきワールド グランプリ ファイナル ラウンドに、何と昨年のディフェンディング チャンピオン アーネスト・ホーストはおろかベスト4のうち、三名が負傷欠場という緊急事態。これぞ、新たなK−1誕生のための産みの苦しみであり、まさに天の配剤と言えよう。この逆境をも味方につけてK−1は新たな歴史の1ページを刻むのか? あるいは本当にその使命を終えてしまうのか? 運命のゴングは12月6日、東京ドームで鳴る。


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[猟格プロ日記]
K−1の迷走を救えるのは
誰か?

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プリンス「エンドロフィン マシーン」
(『ゴールド・エクスペリエンス』より)

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