大相撲の元横綱曙の曙親方(34)=本名・曙太郎、東関部屋=が日本相撲協会を退職し、立ち技最強格闘技K−1に参戦することが決定した。谷川貞治K−1イベントプロデューサーのいわゆるファイン プレイといったところなのだろうが、実は筆者はあまり期待していない。だが、大晦日の格闘技視聴率大戦において、K−1&TBS主催の『Dynamite!!』が機先を制してぶっ放した “曙 VS. ボブ・サップ”のカードは、確かに世間一般への訴求力という点ではズバ抜けている。
しかし、曙も相撲という無呼吸格闘技の出身だからエアロビクス等々をやって、呼吸器系を鍛えなおさないと、おそらくスタミナが1分ももたないだろうから、まず格闘技の試合にはならないと思う。実は先達のサップも結局、この壁をいまだに克服できておらず、逆にK−1のファイナリスト達はサップのような大きな選手の対処法はマスター済みだから、今後もサップがK−1で勝つことはことはないだろう。結局、こういう話題先行のイロモノ マッチ専門要員になるのか? ただ、石井館長が脱税疑惑で捕まり、代表が谷川氏に交代して以来、K−1もプロレス化が著しいから、サップのポジショニングに関してはそれもありかな、と…
曙はおそらくマーク・ハントの活躍に触発されたのだろうと思う。よくリング サイドで応援している姿が見られたし。ポリネシアンならではの、打撃の威力を完璧に吸収してしまうポテンシャル抜群のフィジカル コンディションは、K−1のリングでも大きな武器になるだろう。ハントも自らの肉体のタフネスによって自分の距離を作り、K−1での技術不足を補っていたわけで、曙が手本とするべきはこの闘い方である。
ファンとしては、単純に総合格闘技の試合に相撲の格好で登場してくれた方が面白いけど、そういうことでもなさそうだ。しかし実際にガチンコの試合となれば、これはもう長年身についた動きしか出来ないというのが正直な所で、試合前に1〜2ヵ月程度練習したところで、そこで習得した動きが効果的に発揮できるかと言えば、はなはだ疑問だ。
それに相撲の最初のぶつかりには、スカさないという暗黙の了解がある〜スカシなど行った時点で、ファンのバッシングが物凄いだろうから、実際には無理〜から相撲になるのであって、総合格闘技の試合でバカ正直にそれに付き合う選手は皆無だろう。かわされたらそれまでである。また、土俵よりもリングの方が当然、柔らかいから踏み込みも踏ん張りも利かないだろう。異種格闘技からの転向組の多くが最初にぶつかる壁こそ、このマットの柔らかさである。
センセーショナルな話題だが、いろいろな意味でサップの提唱した相撲ルールこそが正解だという気がする。相撲ルールならサップが敗戦しても十分、言い訳が立つし、試合時間が1分程度でも問題ないだろう。筆者も単純な興味として、大相撲・横綱のぶつかりとNFLのタックルの正面衝突は是非、見てみたい。
●実は暴露本としてはこれまでも門茂男の『ザ・プロレス365』や粟田登の『力道山』、佐山聡の『ケーフェイ』といった究極の1冊があり、そのインパクトは『泣き虫』どころの騒ぎではない。実際『泣き虫』はプロレスラー・高田延彦の自叙伝以上でも以下でもないし、その内容は暴露本とは程遠い。
●この本を暴露本として批判の急先鋒に立っているのは、元週刊プロレス編集長・ターザン山本であるが、彼自身が実は佐山聡の『ケーフェイ』の影の仕掛人でありゴースト ライターだったのだから何をかいわんやである。おそらく山本が今回、バッシングに回っているのは、ライターをプロレス業界の人間に頼まなかったからだろう。そのやっかみが半分、身内の恥を外に漏らしたというのが半分というところか。
●ただ『泣き虫』は暴露本ではないにしろ、もはや死に体となったプロレスへのトドメの一撃には十分なりうる。だからこそ、社会通念上マイナスのイメージしかないプロレスの側から、暴露本という社会通念上マイナスのレッテルを貼られているのである。この構造はある意味面白い。
●PRIDEに出場し負け続けていた時の高田のキャッチ フレーズは“アイ アム プロレスラー”だったわけで、現在、リアル ファイトを標榜するPRIDE統括本部長の立場にある彼としては、プロレス時代のことを清算する禊(みそぎ)としての通過儀礼が必要だったのだ。実は高田は、あるインタヴューで非常に面白い指摘をしている。“現在のプロレスにプライドを持っていないのは、新日本プロレスのレスラーの方だろう”と。まさにその通りだと思う。