今年は申年ということなので、お正月らしくビッグで華やかで無責任なトピックスでスタートしよう。

 そもそもゴジラ ファンの筆者としては、申年と聴けばすぐさま『キングコング対ゴジラ』略して『キン・ゴジ』! と思ってしまったわけで、ここに深い考察に基づいた思想性などは皆無なのだ。今年はゴジラ生誕50周年ということなので、旧作ゴジラ シリーズの中で唯一今までリメイクされていない『キン・ゴジ』を是非、お願いしたいものである。

 作品の制作は'62年。ゴジラ シリーズではこの『キン・ゴジ』が興行的にもダントツの成績(観客動員数1120万人)を残しているが、それは東宝30周年記念超大作ということで潤沢な資金を投入できたことが大きい。

“キングコング”という名称の著作権料が、何と当時の金額で実に8000万円!もかかったというから凄い。漫才コンビのキングコングとか大阪はミナミのアメリカ村にある中古盤屋のキングコングは絶対、無断使用だろうけどな(激怒) 現在の金額に換算すると、約9億〜10億円くらいであろうか… メル・ギブソン、シュワルツェネッガー、トム・クルーズ、ハリソン・フォードといったハリウッド超A級クラスのギャラ相場が約25億円〜30億円だから、それと比較しても単に名前を貸すだけで10億円というのは破格であろう。それだけこの作品には東宝の力が入っていたのだ。

 そして新シリーズで唯一リメイクされていない最大の理由も、実はこれなのだ(と思う)。ただファンの間ではなかったことになっているアメリカ製の『ゴジラ』が、ジュラシック パークまがいのパチもんでゴジラの価値を大暴落させたわけだし、罪ほろぼしにハリウッドもキングコングの名義くらい格安レンタルしてもらいたいものだ。

 ゴジラの造型はイグアノドンのルックス、ティラノザウルスの胴体、ステゴザウルスのタテガミを併せて考案されたそうだが、初代のゴジラはさらにそのルックスに原爆のキノコ雲のイメージをダブらせていたらしく、完全な爬虫類とも言えない一種異様な風貌をしており、筆者はあまり好きではない。逆にキン・ゴジのルックスは歴代ゴジラの中でも最もシャープで実にトカゲ然としていて、筆者などかなりお気に入りである。

 このキン・ゴジ、人間のために悪い怪獣をやっつけるという気色の悪い善玉ゴジラではなく、日本映画最凶の悪役スターとして君臨するゴジラであり、アメリカ映画最強のヒーロー キングコングを敵に回して一歩も引かない超ド迫力を披露する。しかも怪獣映画究極の切り札、キングコング対ゴジラのウルトラ インパクトにおんぶにダッコではなく、東宝が誇る豪華キャスト陣をズラリ配置し、抜群に面白いストーリー展開で人間側のドラマを決して添え物におとしめていないのは、正に当時の業界人の心意気を見る思いがする。

 パシフィック製薬提供のTV番組『世界の脅威シリーズ』は視聴率低迷打破のために、ファロ島の守り神である南海の魔神キングコングに白羽の矢を立てる。番組内でキングコングを紹介し、さらに日本に連れて来て、販売促進プロモーションの目玉に据え、一大イヴェントを行おうと言うのだ。ここに南極の氷柱の中から蘇生し、その帰巣本納から日本へ向かうゴジラが絡んでくる。

 つまり日米ニ大スーパー スター、世紀の一戦をお膳立てしたのが、実はTV視聴率戦争、あるいは商品販売競争だったという、あまりにも出来すぎた脚本である。所詮、怪獣は人間の欲望以上に怪獣的にはなれないのだ。怪獣の存在など人間の歪んだ欲望の前では全く無力である。

 正に“宣伝の鬼”といった様相のパシフィック製薬・宣伝部長 有島一郎のぶっ飛びまくりの熱演(これが後の『暴れん坊将軍』の五郎左衛門 役につながって行くのでしょうね)、高島忠夫・藤木悠の二人そろっていい味出してるおとぼけコンビ、また作品の冒頭では高島忠夫の素晴らしいドラマーぶり! も堪能できる。

 キングコングの棲息するファロ島の原住民で、魔神を眠らせるために素晴らしいダンスを披露する島の美女には、『獣人雪男』のチカ役でその実力を証明済みの根岸明美。完全なワンポイント出演だが、このシーンだけでもこの作品、見る価値があるというもの。

 第一作、第二作と同様、ここでもゴジラやキングコングは台風や洪水、津波といった災害や戦争といったものと同じニュアンスでとらえられているのが面白い。劇中の世界観では、怪獣は決して非日常ではないのである。

 しかし、毎回、見るたびに“マヌケな演出だなぁ” と思うのが、怪獣が出現しているにも関わらず、必ず怪獣に向かって走っていく交通機関があることだ。電車とか自動車とかね。普通、戒厳令が引かれてるんだから、交通機関なんて完全にストップするって。

 キングコングが持ち上げた電車にたまたま(笑)乗っていたのが、後のボンド ガール(『007は二度死ぬ』) 浜美枝扮する桜井ふみ子(高島忠夫の妹役)。彼女、つかまってからの絶叫が物凄いぞ。迫真の演技だぁ(でも、本人のアフレコじゃないらしいけどね) そして美女と野獣さながら、お約束のシーンが続くわけだ。

 ニューヨークに連れて来られたキングコングは美女フェイレイを片手にエンパイア ステート ビルに登ったが、我が円谷キングコングは何故か当時、日本一高かった東京タワーではなく、国会議事堂に登る。東京タワーには洒落が通じなかったのだろうか? 第一作の『ゴジラ』で破壊された銀座の松坂屋デパートと和光の時計台は、少なくとも昭和30〜30年代、東宝のロケに非協力的だったそうだから、それ的な裏事情があったのかもしれない。

 日光中禅寺湖畔でのファースト コンタクトでは、キングコングはゴジラの吐く放射能に惨敗し、頭をかいてすごすごと引き上げるが、“へっ こりゃあ、いけねえや!”って感じの仕草がなんとも可愛らしくていい。

 また、富士山麓〜熱海城にいたるセカンド バトルでは、100万ボルトの電流を受けたことで帯電体質となったキングコングが、ゴジラの放射能火炎をものともせず、尻尾をつかんでの豪快なハンマー スルーを披露する。これは全ゴジラ対戦史の中でも屈指の名場面だろう。勝利の雄叫びを上げながら胸を叩くお馴染みのポーズや肩をいからせて歩く独特の動作等々、演じているソロモンこと広瀬正一の独壇場である。

 南海の魔神キングコングと最凶悪獣ゴジラの死闘は、2頭組み合ったまま海中に転落、両者リング アウト、引き分けという非常に奥ゆかしい結末を迎える。ゴジラの対戦成績については唯一、土をつけた巨蛾 モスラ(の幼虫)に並び、実はキングコングの一分けも唯一の好記録なのである。ドラマはファロ島へ泳ぎ去って行くキングコングの後姿でラストシーンを迎え、ゴジラはまたもや消息を絶つ。

 これこそ古き良き昭和プロレスのテイストだナァと… まるでジャイアント馬場とバーン・ガニアの馬場3000試合連続出場突破記念試合AWA世界・PWFダブル タイトル マッチ('81年1月18日)のようだ。分かる人にしか分からんたとえで、正直、スマン。

'62.8.11 カラー 東宝スコープ ●スタッフ:製作 田中友幸/監督助手 梶田興治/脚本 関沢新一/撮影 小泉一/音楽 伊福部昭/美術 北猛夫 安倍輝明/録音 藤好昌生/整音 下永尚/音響効果 西本定正/照明 高島利雄/編集 兼子玲子/スチール 田中一清/振付 青木賢二/製作担当者 中村茂/現像 東京現像所 ●特殊技術:特技監督 円谷英二/撮影 有川貞昌 富岡義教/光学撮影 幸隆生 真野田幸雄/美術 渡辺明/照明 岸田九一郎/合成 向山宏/監督助手 浅井正勝/製作担当者 成田貴 ●出演:桜井修 高島忠夫/桜井ふみ子 浜美枝/藤田一雄 佐原健二/古江金三郎 藤木悠/多胡部長 有島一郎/重沢博士 平田昭彦/東部方面隊総監 田崎潤/たみ江 若林映子/通訳コンノ 大村千吉/酋長 小杉義男/祈祷師 沢村いき雄/チキロの母 根岸明美/牧岡博士 松村達雄/大貫博士 松本染升/大林 堺左千夫/キングコング 広瀬正一/ゴジラ 中島春雄
2004年1月5日号掲載
ご感想はこちら


[猟カツ日記]
申年だから
東宝創立30周年記念超大作
『キングコング対ゴジラ』

w r i t e r  p r o f i l e



turn back to home | 電藝って? | サイトマップ | ビビエス