(スポーツ報知) - 5月2日10時50分更新
久し振りに興奮した。
テレビ朝日で、プロ野球放送の演出の目玉として『アストロ球団』のアニメを使用したところ、視聴者から“まさかアストロ?”の問い合わせが殺到。その反響の大きさから実写ドラマ化を決定したというのだ。
毎週火曜日の少年ジャンプの発売日を心待ちにし、リアルタイムでアストロ超人の奮闘に涙した筆者 〜筆者の涙腺を最も刺激する漫画ベスト ワンと言って良い〜と同世代の漫画ファン(けしてアニメではない)には、正に衝撃的なニューズであったと言える。
この『アストロ球団』、多くの人々が何とも不真面目なオチャラケ レベルの解説、 実は単なるストーリー紹介に過ぎない駄文を連発して、筆者を毎回激怒させていたのだが、昭和という時代が持つ過剰性を全編で体現し、'70年代だったからこそ可能だったあの熱さを理解できないシラケ世代が、いかに言葉巧みに語ってもその本質を伝えきれないのは仕方ない。
立っているもの全てをなぎ倒さずにはいられない暴風雨のようなエネルギーは、確かに平成に生まれ育った世代では到底抗しきれないだろう。今の世代に、あの作品と正面から向かい合えるだけのポテンシャルは、もはや皆無と言っていい。結局彼らに出来ることと言えば、正面突破を避けて、茶化すか、頭を抱えてやり過ごすか、せいぜいそんなところだったというのは良く分かる。
『アストロ球団』は'72〜'76年にかけて集英社の<週刊少年ジャンプ>に連x載された“超人格闘技野球漫画”だ。
フィリピンで戦死した不世出の大投手 沢村栄治がその玉砕の前夜、 体のどこかにボール形のアザを持ち、昭和29年9月9日午後9時9分9秒生まれの9人の超人(この設定は全く南総里見八犬伝のまんま)たちが沢村を監督と呼び、縦横無尽の超人プレーを見せる夢を見る。
沢村はアメリカとは野球人として闘いたいと熱望しながら戦地に赴くが、現地の子ども J.シュウロに、自らの野球テクニックとその夢を託す。この沢村が戦地へ赴くシーンだけでも、思い出す度、目頭の熱くなる名場面である。沢村の遺志を継いで来日したシュウロは、超人を探し出し、打倒巨人、打倒米大リーグをスローガンにアストロ球団結成していくというストーリー。
Yahoo で行った無駄なものアンケートでは巨人選手の年棒が上位に上がっているくらい現在の巨人は最下位が定位置になっているし、イチローやゴジラ松井など日本人選手がメジャーリーグで大活躍している昨今、打倒巨人、打倒米大リーグを目標に展開するストーリーはもはや時代錯誤も甚だしいが、9連覇という前人未到の偉業を達成し、王・長島のON砲が全盛だった当時の巨人は、今からは想像できないくらい強かったし、その巨人でも到底かなわない米大リーグは正に雲の上の存在だったのだ。まずそういう時代設定を実感させるのが、この平成では厳しいかもしれない…
また、制作サイドの“野球をしっかり見せたい”という下らない意向も実は大問題で、CGは最小限に抑え、ワイヤーアクションなどで、できるだけ生身で演じることを目指すらしいが、常人には理解しがたい必殺技の数々は、もはや野球漫画のカテゴリーを大きく逸脱しており、どう考えてもCGを多用しなければその再現は不可能なのだ。
ここは原作にイメージの近いキャスティングに重点をおいた方が絶対良かったのである。記事を読めば読むほど、筆者のフェイヴァリットな作品が無残な結果に終わらないか? たぶんアカンだろうなぁ…との懸念が募るばかりなのだ。
では、アストロ球団ではどのような超人プレーが披露されるのか? その一端を紹介しよう。
双子の超人・明智兄弟の守備は、子供のように小柄な兄の球七(センター)をアンドレ・ザ・ジャイアントのような巨漢 球八(レフト)がつかんで投げる(!)ことによってホームラン性の打球を全て捕球する。
彼等は時の阪急ブレーブズ(現在のオリックスバッファローズ)にすでに入団しており、日本シリーズを舞台に巨人(8連覇中)に潜入したアストロ球団の宇野球一、初代上野球二、三荻野球五の三名と、明智兄弟の超人守備を破れば、明智兄弟がアストロ球団に移籍、負ければ3人が阪急に入団することを条件に勝負する。
球二の三回転打法、球五の加速度打法は明智兄弟の守備の前に完封されるが、球一が放った“ジャコビニ流星打法”が彼らの超人守備を打ち砕く。何とこれ、ヒビの入ったバットでフルスイング、打球と同時に折れ飛んだバットの破片で相手の守備を撹乱(かくらん)させるという破天荒な打法なのだ。しかし、これって故意なんだから立派な反則だろうに…
また沢村栄治がゲーリック、ベーブルースを三振させたといわれる幻の秘球“三段ドロップ”、腰の回転を最大限に活用した変則フォームから繰り出される“スカイラブ投法”、回転するドリルをつかんで損傷させた手のひらの大きな三本のキズが生み出す“ファントム大魔球”(以上、球一)、打った球が撥ね返らずバットを這う“妖球 殺人L字ボール”、どのように防いでも絶対デッドボールになる “ビーンボール魔球”、鉛のように重いスピンボールのため絶対に外野まで飛ばない“ファイナル大魔球”、負傷させることを目的で野手を強襲する“殺人X打法”、球が火を吹いて飛ぶ“コホーテク彗星打法”、ルールの裏を完全にかいた2本1対のヌンチャク バット、格闘技の必殺技をそのまま野球に応用した“消える打球”“九星剣円陣”“人間ナイアガラ”“陣流 奥超拳 無為無感有耳音の極”“陣流 超奥義 飛燕活殺円法”などなどなどなど… あ〜 もういいッ!!
新書版コミックス全20巻の大長編作品にもかかわらず、作中で描かれる試合はたったの3試合という点を考え合わせると、魔球インフレとも言うべき大量生産と大量消費(初披露した試合ですでに打たれている…ちなみに野球漫画の代名詞である『巨人の星』原作:梶原一騎 作画:川崎のぼる が全19巻を擁して登場させた魔球はたったの3種類である)はそれ自体がいかにも昭和という感じがする。
金田正一監督率いるロッテとのオープン戦は、新書版第5巻から始まり第9巻で大団円を迎えるが、筆者が最も好きなシーンは新書版第8巻『逆転への絶叫の巻』である。
9回表、死球に倒れた球一が奇跡の復活、ついに完成させた“スカイラブ投法”でリョウ坂本の“消える打球”を粉砕する。しかし、あまりの変則投法のため鎖骨と両方のヒジを骨折、投手としては致命的な負傷を負って、再び倒れる。
10回表、治療を受けた球一は再びマウンドに上がるが、利き腕が使えないため、右手で投げることになり、2番の好打順から始まるロッテ打線にメッタ打ちにされる。センターを守る球七は両手をモンスター・ジョーの打球によって負傷させられており、文字通り身体を張ってホームラン性の当りを身体で止めアウトにするが、そのため満身創痍、再起不能に近い状態になる。
延長戦に突入した10回裏、なんと打順は一番の球七から。球七が放った奇跡の一撃は、ホームラン性の当りになるが、球七は無理がたたって走れない。そして懸命の力走にも関わらずアウトになってしまう。球七が“およばねぇ…”と一塁ベースを抱くように倒れるシーンは、正に涙なしには見られないシーンである。あ、また涙が…
元来、全員が4番バッター クラスの強打者で超人的な守備が可能な選手がチームを組んでプレーをすれば、通常のチームではまったく歯が立たない一方的な試合になるはずなのだが、そこをそうせず超人にサディステックなまでに様々な試練を与え、限界ギリギリのところまで追い込んでなお、フィールドに立たせる妥協なき男の世界こそが、『アストロ球団』の真骨頂である。
アストロ超人のスローガンである“一試合完全燃焼”――つまり次の試合のことなど考えず、今、行っている試合で燃え尽きること――こそ、この先の見えない平成の時代に最も求められていることなのかもしれない。原作者の遠崎氏は“アストロで言いたかったことは、とにかく命をかけて一生懸命やっている、そこにこそ価値があるということ。先が見えない時代に『アストロ球団』が復活するのは、とても意味のあることだと思う”とコメントしている。
今春、筆者が大真面目に見ていたあだち充(個人的にはかなり嫌いな漫画家に入る)原作の『H2』が、CGを巧みに使った野球シーンと素晴らしいキャスティング(石原さとみ〜個人的にはかなり好きなタイプに入る市川由衣〜個人的にはかなり好きなタイプに入る)で大成功を収め、引き続きアニメ化された経緯を見るにつけ、『アストロ球団』が同じテンションで展開されることを切に願っている。やっぱ、あかんかぁ〜
漫画が原作の傑作
意外に少ないナァ
『バタアシ金魚』('90年 監督:松岡錠司 主演:高岡早紀 筒井道隆)
『毎日が夏休み』('94年 監督:金子修介 主演:佐伯日菜子 佐野史郎)