窓の外を雪がちらついている。私は毛布をかぶって壊れた電気ストーブを眺めた。買ってまだ一週間しかたっていないのに、今日の朝唐突にどのスイッチを押しても何の反応も示さなくなっていた。寒い。私は動く気力も無くなってそのままベッドに入り毛布を被った。今頃私の職場では大騒ぎかもしれない。偶然、と必然。ある朝買ったばかりのストーブが壊れて私が仕事に行かなくなる。私が抜けた世界は少し滞りながら回る。そしてそれは次第に滑らかになり、私の穴は綺麗に埋まる。必然。

 窓の外の雪はさっきよりもつよくなり、しんしんと降る。向かいの家の屋根には薄く雪が積もっている。私はカーテンを閉めて毛布を被ったまま靴下を二重に履いて冷蔵庫まで水を取りに行った。冷蔵庫の中には暗く濃い闇が広がっていて、私はその中に手を入れてペットボトルの水を取り出す。ペットボトルを持った私の手に深い闇が触れ私を誘う。私はぱたん音を立てて冷蔵庫を閉め、ゆっくりと水を飲む。水はゆっくりと滴り落ちて、身体の中で高い音を立てる。波紋が、均一に広がっていく。そしてまたもとの静寂に戻り、私は毛布を被ったままベッドに座る。

 はぁ

 溜め息をつくと息が白かった。私はもう一度息を吐いた。やっぱり白い。白い息はすぐに消えて私の身体にまとわりついた。冷蔵庫の中から、コツコツと音がする。窓が風でガタガタ鳴る。天井にうっすらと大きな目が浮き出して、じろじろと私を見る。私は天井の目に白い息を吹きかけた。息は目まで届かずすぐに消えてしまった。私は目を閉じて大人しく身体の静寂に耳を傾けた。こぉんと水の音が響いて、水際が少し音を立てる。冷蔵庫が一際大きくガタンと鳴った。身体の中が大きく波打つ。天井の目が、ぎょろぎょろと私を見る。私は目を開けて起き上がり、カーテンを開けた。窓の外は真っ白で、雪はしんしんと降り積もっている。私は窓を開けて窓から手を出した。
 少し強い風と雪が、部屋の中に吹き込んでくる。私の手の上で、いくつもの雪がゆっくりと溶けていく。私は大きく溜め息をついた。私の息はタバコの煙のようにはっきりと白い。私は何となく少し笑って、窓をゆっくりとからから閉めた。

 すみません連絡が遅れてしまって…はい…はいそうです…雪で電車が動かなくて…すみません…はい…はい失礼します

2006年1月9日号掲載
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