p r o f i l e

 

 11月からつくばのカフェでDJを始めた。最近はDJが流行りで、様々な雑誌も出ているし機材もいろいろと売られているだが、ぼくの場合はDJそのものがやりたいというよりも、とにかく好きな音楽を流したい、そして聞いてもらいたいという気持ちからやっている。というのは、どんな音楽が好きですかという質問が実は一番困る質問であるからだ。

 ぼくは1979年に大学に入り1983年に卒業した。その間は東京に住んでいた。これはとても決定的なことではないかと思っている。ぼくにとっては1979年という年は象徴的な意味を持っている。

 イギリスでパンクムーヴメントが始まったのはこの頃だ。セックスピストルズは1978年にデビューアルバムを出し、1979年にはすでに解散している。そしてジョニー・ロットンと名乗っていたヴォーカリストはジョン・ライドンと名を本名に戻し、Jah Wobble らと Public Image Limited を1979年に結成し衝撃的なファーストアルバムを出している。

 そしてイギリス各地でパンクの衝撃を受けた若者たちが様々な活動を始める。1979年には、Joy Division も The Pop Group もファーストアルバムを出している。この二つのバンドがデビューしただけでも1979年はロックの歴史の中に記憶されるべき年だ。

 いや、正確に言うと、彼らの音楽はロックではない。パンクの使命はロックを殺すことにあったからだ。ロックは1979年に死んだのだ、とぼくは思っている。当時は彼らの音楽を Alternative Music と呼んでいた。いま80年代のそれらの音を再評価する動きがあるようだが、いまだに統一された呼称がない。Alternative、あるいは 80's New Wave、場合によっては No Wave という言い方もある。名前がないということ、これは実に興味深いことだ。つまりそれはいまだにそれらを扱う言説がないということを意味する。

 だからとりあえずいろいろとレコードやCDをかけてみようと思った。

 といっても場所がカフェなのであまりハードなのはかけられない。何しろお客さんはそういう音楽を聴きに来ているわけではない。ただご飯を食べに、あるいはコーヒーを飲みに来ている。だから時々その時代の音楽でないものも混じっているが、そういうことなので気にしないでほしい。

 それではそのプレイリストをあげながら解説していくことにしたい。そうすることで何が見えるか。自分でも分かっていないが、まずレコードに針を落としてみないことには始まらない。

 次のリストは、11月1日にかけたもの。もちろんDJワークなのでその場では曲を繋いでかけている。

01
Sketch For Dawn I / The Durutti Column
The Durutti Column は、Joy Division 以降の、マンチェスターの Factory Records の一方の看板だった。次第にベルギーの Factory Benelux、のちの Les Disques de Crepuscule にも活動を移していった。実際は Vini Reilly というギタリストのワンマンユニット。

初めて The Durutti Column の音を聞いたのは、Factory Quartet というコンピレーションアルバムでだった。それはとても衝撃だった。この世のものとも思えないほど美しいギターの響き。彼は、すぐに LC というアルバムを出した。佳品のつまった傑作アルバムだと思う。彼はその後も作品を発表しているが、当時の輝きを越えることはできなくなっている。

02
Last Tango In Paris / Gotan Project
これはいまのバンド。バンド名から分かるように現代的なタンゴである。

いわゆるラウンジ系ということになる。場所がカフェなのでお客のウケが良いかなと思ってかけた。

03
GIVE THANKS (RADIO EDIT) / Kodama Kazufumi
こだま和文はかつてミュートビートというバンドのリーダーだった。いまはソロで活動している。1980年頃、原宿のはずれにあったピテカントロプスというクラブに出ていた。その頃、TRAというカセットマガジンが出ていて、初めて聞いたのはTRAでだったと思う。当時からいまに至るまでぼくは彼のファンです。日本のミュージシャンでは彼が一番好き。

ところでTRAは当時もっとも先鋭的なマガジンだった。アーティストカタログと銘打っていた。ここのところの再発ブームで、どうにか再発、というかCD化してくれないかな。CD化されたら即全部買う。

04
Thieves Like Us / New Order
Joy Division のヴォーカリストであった Ian Curtis が自殺した後で残ったメンバーは New Order と名乗り活動を継続した。イアン・カーチスの自殺は突然だった。1979年に Unknown Pleasure というファーストアルバムを出し、Love Will Tear Us Apart というシングルがヒットし、セカンドの Closer が完成し、さあいよいよアメリカツアーに出発という時に自殺した。残されたメンバーのショックは察するにあまりある。ぼくは当時 New Music Express という雑誌(だったと思う)でメンバーの英文のインタビュー記事を読んだ。
痛ましかった。

New Order の最初のシングル Ceremony のレコードのA面の内側には、WATCHING LOVE GROW - FOREVER と、B面には HOW I WISH WE WERE HERE WITH YOUNOW と密やかに刻まれてある。

今年のフジロックに New Orderが出演して、その映像をWOWOWで流したものを友人が貸してくれたので見たのだが、彼らは Joy Division 時代の Transmission という曲を演奏していた。それを見ていてぼくは泣いた。アレンジが Joy Divison 時代と全く同じだった。ボーカルがイアンではなく、バーナード・サムナーである点を除いては。Joy Divison の Ian Curtis はいまだにぼくのアイドルだ。

05
Walking In The Sunshine / Miss Kittin & The Hacker
Miss Kittin は現代の女性のミュージシャン。テクノである。音が80年代ぽっくってとても好き。

06
At Home / Wim Mertens
Wim Mertens はベルギーのレーベル、Les Disques du Crepuscule の看板ミュージシャンだった。最初は、Soft Verdict という名のユニットを組んでいたが現在はソロでやっている。現代音楽、中でもミニマルミュージックの音楽家。確かミニマルミュージックの著作もあって邦訳もあったはず。

この曲は、At Home というシングルからの傑作。CDも出ている。B面が Not At Homeという曲でこれも傑作。ニューヨークの Love of Live Orchestra という現代音楽系のバンドの Peter Gordon という人がサックスを吹いている。カッコイイ。

07
Carolyn's Fingers / Cocteau Twins
4ADというレーベルの看板グループ。高音の女性ヴォーカルが特徴だが、彼女の歌は何語でもない。意味がない言葉なのである。Blue Bell Knoll というアルバムは大傑作。

ぼくの友人のアメリカ人がこのDJを聞いていて、この曲が流れた瞬間に「懐かしい!」と叫んだ。

08
A Man of Tribe / Maximum Joy
The Pop Group は解散後、リーダー格の Mark Stewart がソロ活動を始め、残りの連中は Rip Rig & Panic、Pigbag、Maximum Joy という3つのグループに分かれていった。Maximum Joy はつい最近まで全くCD化されていなかったが、現在は矢継ぎ早にCD化作業が行われている。この曲は、Why Can't We Live Together というシングルのB面で、つい最近出た Unlimited というCDにも収録されている。が、Why Can't We Live Together はカヴァー曲であるせいか、CDに入っていない。

ところでぼくは1985年頃にロンドンに行ったとき、Maximum Joy の Why Can't We Live Together がデパートで流れているのを聞いた記憶があるのだが、あれはぼくの勘違いだったんだろうか。いまだにぼくの中では謎である。

09
Shame Of The Nation / New Order
この曲は、1986年の Brotherhood に収録されている State of the Nationの別バージョン。Substance という2枚組のベスト盤に入っている。

# 10
The Floor Above Me / Double Muffled Doplhin
デンマークのテクノミュージシャンらしい。彼のサイトを見つけたことがある。かなり無名である。3年前にロンドンのラフトレードに行ったとき、オヤジに聞いたら知らなかったっけ。

たまたま水戸芸術館のミュージアムショップ「コントルポワン」で見つけて買った。気に入っていたがなくしてしまったので、アメリカのサイトで見つけて買い直した。

ちなみにコントルポワンは原宿のショップ「ナディフ」の姉妹店。ナディフは以前は池袋の西武美術館(西武デパートの12階にあった。いまのセゾン美術館ではない)の脇にあった小さな現代音楽専門のレコード屋の後身であるはず。あの店の名は何だっけ?

11
Vaka / Sigur Ros
いまもっとも注目すべきなのはこのバンドだろう。アイスランドの Fatcat Records のバンド。このレーベルは他にも素晴らしいバンドを擁している。今年のフジロックにも来ていた。

これは「( )」という変なタイトルのアルバムから。ちなみにこのCDには曲名が全く記されていない。iTunes に入れたら曲名が出たから曲名はあるのだろう。この曲は彼らの代表作と目されている。

ギターをバイオリンの弦で弾いたりする。静かできれいな音。

2005年12月26日号掲載

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