古今漫画夢現-text/マツモト

三宅乱丈
『大漁!まちこ船』

あまりにも新鮮な切り口によるエロティシズム

もし、かわいい女の子が魚のエサだったら……。サイズからすると多分千万物のマグロだろう。マグロの中で女の子は消化されそうになってトロトロになるだろう。根がかりなんてしたら、釣り糸でキュウキュウに責められて、ムチムチの太ももがはみ出てしまうかもしれない。それに女の子をエサに使うくらいだから、漁師は相当の猛者に違いない。漁師ひとすじ、きっと筋骨隆々で無精ひげに鼻毛も生えていたら最高に味が出るだろう。むくつけき漁師の男と可憐な魚のエサの女の子……ネタ的においしすぎる。ギャップがありすぎてエロスの香りが漂う。

作者の三宅乱丈氏は、これまでに異色の作品を数多く連載し続けている。食べ物責めを快楽に感じてしまう男の子を描く『王様ランチ』、経営難のため仏教専門学校を開いたお寺のスラップスティック劇『ぶっせん』、人の記憶をいじる稼業“潰し屋”の顛末を描く『ペット』や、新撰組のトップが薬を飲んでオッパイができてしまう『秘密の新撰組』など、どれも想像力の豊かさとそれをまとめ上げる力量に驚くような作品ばかりである。

その中でも、ぼくのお気に入りはこの『大漁!まちこ船』。本作の新鮮な切り口でのエロティックさは驚きである。誰が魚のエサを女の子に例えるだろうか。もしそんな妄想が頭をよぎったとしても、ちょっとした笑い話にしかならないか、あるいはあまりの他愛もなさに早々に忘れ去ってしまうだろう。しかし、三宅氏はそこに金塊が隠されているのを見逃さない。消化寸前でトロトロになる姿や、根がかりをして締め上げられる姿が強烈なインパクトを持っているのに気づく。しかも、作者の持つ日本画のごときタッチでそれを形にしてしまうのだから、無駄に濃厚な(笑)ネットリとしたシーンが出来上がる、というわけだ。

エロ本は一般に、作者の妄想を爆裂させやすいジャンルだからか、そこらのギャグマンガよりもクオリティが高い、という印象がある。しかし残念ながら、それらの多くの内容は過激すぎて一般読者に読まれることはあまりない。この作品にもエロの要素がある―いや、むしろエロは作品の核だろう―が、本作の魅力はそれだけではなく、想像力の豊かさや切り口、着眼点の新鮮さがとくに輝いている。

短編ゆえのアイデアのストレートな表現や、ありえない場面でのエロスをシュールにまとめ上げるところにとても好感を抱く。また、ぼくが感じた驚きは、アイデアが本作のリアリティに馴染んでいるからでもある。それゆえ本作を開くと、潮の香りが鼻に飛び込んでくるようでもあるのがまた心地よい。

2008年9月22日号掲載 このエントリーをはてなブックマーク

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「大漁!まちこ船」(三宅乱丈、講談社モーニングワイドコミックス) p.34 2投目「その名はまちこ!」
「大漁!まちこ船」(三宅乱丈、講談社モーニングワイドコミックス) p.34 2投目「その名はまちこ!」
必ずコスプレをしてマグロのエサになるまちこ。この日はメイド服であった。もう濡れ濡れである。
「大漁!まちこ船」(三宅乱丈、講談社モーニングワイドコミックス) p.50 3投目「小川と海」
同p.50 3投目「小川と海」
このものごっついおっさんがまちこの雇い主、中村船長。豪快過ぎて惚れる。
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