電藝読者ならDJ80 Toshiが塚本敏雄の別名であることをご存じかと思う。
そう、つくばのカフェでのDJをしている80年代オルタナティヴミュージックに憑かれた男である。その活動は「Out of the Dj Booth」という名で現在も連載が続けられている。これは、80年代の復習を電藝に書いてみませんかという筆者の求めにToshi氏が応じてくれたものなのだが、そのころすでに、塚本氏は、長らくかかわった朗読会「ポエマホリックカフェ」関係の活動を終え、詩の実作をほっぽりだして、DJ活動を開始していた。

 なぜ80年代なのか。

 Toshi氏が耽溺していったのがたまたまその時期だったからばかりではなく、音楽だけに限られているのではないのかもしれない大きな転換点がそこにあったと思われるからだが、当時は玉石混交であり、われわれもよくわからぬまま、目新しいものを追いかけて聴き漁っていた。

 ついわれわれと書いてしまったが、つまりToshi氏と筆者は大学の一室を月に一度借りきって、たしか6時から9時まで(キャンパスが9時でロックアウトになるのだ)レコードコンサートを主催していたのである。

 新婚旅行で訪れたロンドンで、あきれる新妻を尻目にラフトレードへ乗り込んだToshi氏だが、もともとはドアーズやボブ・ディラン、グレートフル・デッドなどを聴く人であった。詩人らしく、パティ・スミスやジョニ・ミッチェルのレコードも持っていて、狭いアパートで聴かせてもらった。つい先頃の「Out of the Dj Booth」で、ドアーズとToshi氏のつながりが明かされそうになっていたが、そのへん、もう一度氏の口からいきさつを聞きたいところである。ジョイ・ディヴィジョンとかクロックDVA、80年代のニュージャーマンロックなどといった、わりと男っぽい感じの音楽が好きなのは、そのへんから来ているのではないかと昔から訝っているのである(昔はトーキングヘッズも好きだった)。もうひとつは詩情を感じさせる静かな音楽の好みで、最近だとWim Mertensに凝っているようだが、サティやロバート・アシュレイ、ジョン・ハッセル、ドゥルッティ・コラムなど。詩人塚本敏雄の感覚は、この二つの系統、それにLAFMSやデヴィッド・カニンガムその他の実験性が混交しているものだと思う。同じことは美術の好みにも言えるのである。

 ところで当時のこと、知人がTG(スロッビンググリッスル)の「ヒーザン・アース」のビデオ上映会というものを企画し、会場であるカットハウスというか美容院へToshi氏と足を運んだことがあった。このビデオはなぜかその後、筆者の手元に残されているのだが、残念ながらPAL版のベータで、あれ以来見たことはない。カビがはえるまでになんとかしなければならないともう20年もあせり続けているのだが、塚本さん、これをなんとかデジタル化して、つくばで上映会をやりませんか。

2006年7月10日号掲載

 

 

 
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