turn back to home



text/キムチ 執筆者紹介

原田大三郎の解説を聞いていたある学芸員は、「それはすごい。解決不可能といわれていたフレーム問題を、鈴木裕はひとりで解いてしまったんですね。」と興奮して話していた。それはいったいどういうことなのか。

 

 

 

 

   技術・文化の両面 から
      ゲームを活性化させた功労者

 「シェンムー 第1章 横須賀」を制作したのは、「バーチャファイター」シリーズを制作した鈴木裕だ。
 鈴木裕は、「1958年6月10日生まれ、岩手県出身。岡山理科大学電子理学部電子科卒業後、1983年セガ・エンタープライゼスへ入社。プログラマー、プロデューサーとして入社2年目にして世界初のアーケード用体感ゲーム『ハングオン』を発表。その後、体感ゲーム開発の先駆者として『アウトラン』などのヒットタイトルを次々と世に送り出した。
 更に、いち早く3DCGの可能性に着目し、CGボードMODEL1を使った作品を開発。1993年には、3DCG対戦挌闘ゲーム『バーチャファイター』で世界的ブームを巻き起こした。この『バーチャファイター』シリーズは、アートとエンターテインメントの分野で社会的に大きく貢献したことが評価され、のアメリカ・スミソニアン協会の「1998コンピューターワールド・スミソニアン・アワード」で日本ゲーム業界初の「情報技術イノベーション常設研究コレクション」に認定され、同時にスミソニアン総合博物館の国立アメリカ歴史博物館(ワシントンD.C.)に「1998イノベーション・コレクション」として関係映像と資料が保管されることとなった。まさに技術・文化の両面 からゲームを活性化させた、アミューズメント業界における功労者の一人といえる。
 現在は、初の家庭用ゲームとして、ドリームキャスト用ソフト『シェンムー』を開発中。従来のゲームの枠をはるかに超えた壮大な物語がまもなく誕生する。又、アーケード最新作はフェラーリとの強力なパートナーシップによって実現した本格的レーシングシミュレ―ター『F355チャレンジ』。ゲーム業界のみならず、車業界からも大きな注目を集めている。」
 以上は、ドリームキャストの公式ウェッブサイトからの紹介。この鈴木裕を、CG制作者として有名な原田大三郎も、彼は世界に誇る日本の天才だと高く評価している。

   主人公が到着する瞬間に
   
生成するアルゴリズム   

 『シェンムー』に使われた技術について、同じく公式ウェッブサイトは以下のように解説している。例えば、「MagicWeather」と呼ばれる技術。
 「いつも同じ風景とは、限らない。ちらほらと降り出した雪は、やがてその量 を増し、一面を銀世界に変える。天候の変化をリアルタイムに扱うことを可能にした画期的なシステム「MagicWeather」。物語を通 じて流れているこのシステム。ここにあるのは、ほんの一例に過ぎない。晴れ、曇り、雨、そして雪。例え同じ場所でも、いつも同じように見えるとは限らない。現実同様、万物は流転している。」
 また「TimeControl」と呼ばれる技術。
 「4 Dimension。これはもう3Dではない。X、Y、Z、・・・そして、T。第4の要素、Time。ここには、時間が流れている。時間の経過に伴う情景の変化。すがすがしい朝。おだやかな昼。美しい夕焼けを経て、静かに夜が訪れる。そして、夜明け。すべてがリアルタイムに表現されている。その中で、人々は働き、食べ、眠り、笑い、涙する。それぞれの場所で、それぞれの時間を生きている。これは、まさに、現実。一人として、同じ経験をする者はいない。」
 主人公とともに街を歩けば、
 「人通りの多い道。狭い道。階段。どこであろうと、行きたい方向があれば、あなたは方向ボタンを押すだけでいい。見たいものを見るときも、もう立ち止まらなくていい。歩きながらでもアナログ方向キーを、そちらに向けるだけでいい。「歩く」「走る」「止まる」「見上げる」。ここでは、誰もが、見たいものを見ながら、行きたい場所へ行けるようになっている。」
 また、
 「リアリティーのあくなき追求の為に、九龍城の中の部屋は、そのディテールまで、徹底的につくりこまれた。その数は1,200以上。部屋の中には、電話やテープレコーダー、懐中電灯など、実際に手に取り、使える道具が置かれている。もちろん、あなたはこのすべての部屋を訪れる必要はない。ゲームは適切なヒントによって進んでいく。訪れるか。訪れないか。それも、あなたの自由だ。」
 登場する人々の表情もまたしかり、
 「私を見つめる目。語り掛けてくる口。その豊かな表情。コミュニケーションの手段は言葉だけではない。その表情からは、言葉以上に相手の気持ちをうかがい知ることができるだろう。妥協のないこだわりが実現させた驚きの実機映像。喜怒哀楽にあふれる彼らと接してみて欲しい。」
 主人公の視線にしたがって、街の隅々を見渡すことは、ポリゴンの空間を微細に作り込んでおけば、不可能なことではないし、想像の範囲内のことだ。もちろん程度の問題はあるし、画像を処理する能力によってリアルさに格段の差が生じてしまうことも当然あるだろう。しかし、「MagicWeather」と呼ばれたり「TimeControl」と呼ばれる技術、あるいは九龍城の1,200以上の部屋を作り上げている技術は、原田大三郎によればそうしたものとは違うそうだ。これらの技術では、天候の移り変わりや、時間による情景の変化自体がアルゴリズムに組み込まれていて、主人公がその場所に到着するタイミングに合わせて作られた空間自体が生成変化するように出来上がっているのだという。九龍城の1,200以上の部屋もまた同様で、それらの部屋はあらかじめ作り込まれているのではなくて、主人公がそこに到着する瞬間にアルゴリズムによって生成されるのだそうだ。
 
 『シェンムー』の奇妙にもリアルな世界は、こうして出来上がっているのだという。原田大三郎のこの解説を聞いていたある学芸員は、「それはすごい。解決不可能といわれていたフレーム問題を、鈴木裕はひとりで解いてしまったんですね。」と興奮して話していた。それはいったいどういうことなのか。

▲このページの先頭へ