道ばたに放り投げられ重なり合うランドセル。黒いのが3個と、僕のオレンジ色のが、1個。
 小学3年生の頃の僕は、学校からの帰り道、悪友たちと道草を食うのが日課になっていた。
 毎日飽きもせず悪さばかりを繰り返していたが、その日は、水を張った田んぼでケロケロと鳴いているアマガエルを掴まえることに熱中していた。そのうち誰かが、麦藁を尻に突っ込んでプーっと膨らませたら面白いぜと言い出した。
 そんなことをしたら、カエルは死んじゃうじゃないかと思ったが、其処に居た誰もが、反対しなかった。意気地無しと言われたくないばかりに、僕も黙っていた。
 倣ってやるうちに、次第に夢中になっていった。
 膨らんだ白い腹を撫で摩ると冷んやりとしていて、すべすべとした感触は僕を虜にした。指の先に付いているイボのような吸盤をひとつひとつ摘んでみると、ぷにぷにしていてとても可愛らしいと思った。指で蛙の腹を押すと足をばたつかせて暴れたので、手の中にすっぽりと収まるくらいのアマガエルを、取り逃がさないように握りしめた。
 そして振りかぶると、思い切り地面に叩きつけた。

 彼女の腹が、腹の肉が、波打って揺れている。

 万年床に仰臥した体躯を俯瞰していると、こどもの頃のことがフラッシュバックして思い出された。己の身に何が起こったのかも解らないまま、断末魔の苦しみに四肢の痙攣を繰り返すアマガエルのことを。いや、彼女の場合はウシガエルの態で、正直僕は、皓々たる二連サークル蛍光管の明かりの下では、見たくはない醜悪なものだと感じていた。そのうち、白目を剥いて泡でも吹くのではとさえ思えてきて、おぞましさについ舌打ちしそうになって寸でのところで呑み込んだ。
 せめて、豆電球にしておくべきだった。
 しかし、視神経から脳へはそう伝達しているにもかかわらず、指先はというと脳から先の体性神経系の回路がいかれちまったのか、動きを止めずに盛んにアクションを起こしている。止せばいいのに、どうにも勝手に動き回る指の所為で、挙句に見たくもない腹の肉のうねる様をまたぞろ見る破目に陥っている。

 事務所用のような色気のない壁掛けの大きな丸い時計が、午前2時を示している。この狭い部屋にはどう考えても大きすぎるし、センスのかけらも無いチョイスだと、いつも感じてしまう。何を思って買うのかは知らないけど、質実剛健と言えば聞こえはいいが、この部屋のアイテムは一事が万事そうなのだ。しかもこの時計、寝るときにはその音が気になって仕方がないという代物だから、厭になる。
 そろそろ、帰らなくてはいけない。
 そう、僕には帰るべき、場所がある。

「ねえ、6ヶ月ぶりなんだよ。」
「へえ、そうだっけ。」
「そうだよ。また、来てくれて嬉しい。」

 放っとけば、きっと、前にセックスしたのが何月何日だったかも言い出しかねない。実際彼女は半端じゃなく記憶力に長けていて、今までにも初めてキスをしたのはいついつだったとか、そういうことにまるで頓着しない僕に向かって、やたら懐かしみを込めた声で喋るので、聞きたくもないからウシガエルの口にキスを落とした。
 今夜、何度目のキスだろう。

> 2.

2009年5月11日号掲載

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