サイレントヒル

オフィシャルサイトへ

【TVゲームの映画化に成功作なし】

 この些か不名誉なジンクスは、長きに渡り映画界に君臨し続けているように思います。アニメーション作品には成功作がちらほら散見されますが、殊、実写作品においては殆どの作品がこのジンクスを打ち破ることが出来ずにいたと言って良いでしょう。

『ファイナル・ファンタジー』の興行・批評的大コケはその最たるものでしょう。この他、『バイオハザード』『同2』『モータルコンバット』シリーズ、『ストリート・ファイター』『スーパーマリオ/魔界帝国の女神』等、興行的には成功を収めたものの、個人的には残念な出来と言わざるを得ない、TVゲームの映画化作品が数多製作・公開されてきました。

 こうなると、TVゲームの映画化というだけで、「どうせダメだろう……」と、見る前から諦観にも似た危惧を抱いてしまうものです。

 そんな中、試写会でいち早く『サイレントヒル』を観賞してきました。

 この作品も同名の人気TVゲームの映画化作品で、現在までに4タイトルがリリースされている人気ゲームだそうです。もう、何年も前からTVゲームに親しんでいない私には、本作の存在こそ知っていても、実際にPLAYしたことはなく、<ホラー要素の強いゲームらしい> という事以外、全く予備知識がなかったのです。では、僕がなぜ本作に関心を抱く事になったのかというと、監督を担当したのが『ジェヴォーダンの獣』のクリストフ・ガンズだったからという一言に尽きます。

『ジェヴォーダンの獣』は中世を舞台にしたフランス産アクション・ホラーの快作で、さほど期待しないまま、なんとなく劇場で観賞して大いに満足したものでありました。少し長すぎると感じる部分はありながらも、トリッキーなカメラワークと見せ場をふんだんに盛り込んだ演出にグイグイと引っ張られた感があり、相当に手に汗握ったものです。

 そんなクリストフ・ガンズ監督久々の新作とあらば、これはチェックせずにはいられません。しかし、ここでやはり冒頭に示した悪しきジンクスが気になってくるのです。期待と不安が相半ばする、いや、不安の方が多少大きいという状態で上映開始を待ったものです。

 しかし本作は、喜ぶべきことに、長きに渡って映画界に影を落としていたそのジンクスを軽々と打ち破ってみせたのです。観賞直後には、「是非このコラムでご紹介しよう!」と、逸る気持ちを抑えきれずに、思わず小躍りしてしまったほど。

【ローズとクリストファーの夫婦は、9歳になる養女:シャロンの夢遊病に悩んでいた。彼女を救う手掛かりを探すローズは、やがてサイレントヒルという、いわくつきの街に辿り付く。30年前に大火災に見舞われ、今では廃墟と化した呪われた街。ローズはシャロンを連れ、サイレントヒルに向かうのだが、途中で交通事故に遭ってしまう。ローズが気が付くと、そこにシャロンの姿がない! ローズはシャロンを捜し求めて、呪われた街に足を踏み入れるのだが……】

というストーリー。

 出演はラダ・ミッチェル、ショーン・ビーン、ローリー・ホールデン、デボラ・カーラ・アンガー、キム・コーツ、ターニャ・アレン、アリス・クリーグ、ジョデル・フェルランド(近日公開予定の『ローズ・イン・タイドランド』では主役を務める期待の子役)ら。

 冒頭から、不穏な雰囲気が充満しており、その重苦しさに良き振るしさを感じながらも、気付けばすんなりと作品世界に誘い込まれているという不思議な感覚。この、問答無用でスクリーン内の異世界に観客を取り込む導入部を過ぎれば、観客はただただ監督の手の平の上で、その流れに逆らわず転がされることになるのです。

 30年前の大火災が、今尚、地下で猛威を振るっており、四六時中、雪のような灰が降り注ぐという異形の街:サイレントヒル。その中で跋扈するクリーチャーの数々と、ただただ娘を探し出そうという母親の姿。そのシンプルなアドベンチャーとしての構図にハラハラし、濃度の高い恐怖演出に慄く……我々、観客が出来る事はただ一つ。片時も目を逸らすことなく、ひたすらにスクリーンを凝視し、事の成り行きを見守るのみ。

 本作は、作品全体に、TVゲームの醍醐味である【攻略の愉しみ】を持ち込むと同時に、しっかりと【映画ならではの香り】が充満しているのです。聞けば、『サイレントヒル』というTVゲームは1991年度のアメリカ映画:『ジェイコブス・ラダー』に強く影響を受けたということですが、このことから本作が、映画→TVゲーム→映画という、胎内回帰的要素を孕んでいることがわかるのです。映画から派生し、TVゲームという形態で充分な成果を残した作品が、更に映画化されスクリーンを彩る。ここに、本作が他のTVゲームを映画化した作品群との違いと、成功の鍵が秘められていると感じる次第。

 本作が、TVゲーム版の体験者だけでなく、私のような未体験者も魅了する間口の広さは歓迎すべきものであり、固定層のみにターゲットを絞ったマニアックなだけの作品に堕していない点を高く評価。また、本作は原作となったTVゲームの世界を踏襲しながらも、過去の名作ホラー群(『キャリー』『ヘルレイザー』『デモンズ』『魔鬼雨』『2000人の狂人』などなど)への愛着と効果的な引用が見られ、やはり映画作品・映像作品としてのこだわりが随所に溢れています。それがまた、筋金入りのホラー映画ファンだけが元ネタを思い浮かべながらほくそ笑む類のお遊びに留まらず、しっかりと演出としての強度を誇っているところも、しっかりと評価したいのです。この「演出の存在」こそが、本作を数多ある駄作ホラーやTVゲームの映画化作品と一線を画している部分であり、エンタテインメント性(娯楽性)の中に、しっかりと作家性を刻み込んでいます。安易で思わせぶりな音響によるショック演出ではなく、「怖い」「痛い」という、原初的かつ直裁的なホラー演出を徹底して視覚化したクリストフ・ガンズ監督と、彼の意図するイメージを『ジェヴォーダンの獣』に続いて具現化してみせた撮影監督のダン・ローストセンに対して、敬意の念を禁じ得ません。(本作における、3次元を巧みに利用した奥行きを感じさせるカメラワークや、度々入れ替わる主観ショットと客観ショットの在り方、早送りやコマ落としをトリッキーに多用した映像演出は大いなる見所の一つ!)

 残酷描写は予想以上にハードですから、ホラーが苦手という方にはおすすめできませんが、心臓の強さに自信のある方には、この夏イチオシのホラー大作に仕上がっています。この数年で乱作された感のあるJホラーに飽きを感じているホラーファンはもちろん必見と言えましょう。

 アメリカ・日本・フランス・カナダの4カ国合作である本作は、全米ボックスオフィス初登場1位というスマッシュヒットを記録し、遂にこの夏、ゲーム版発祥の地である日本での全国公開という形で凱旋します。

 7月8日から、全国松竹系で最怖ロードショー。

 熱気にゲンナリするこの夏、本作を観賞しながら、映画館の暗闇の中で背筋を凍らせてみるのもまた一興でしょう。

 また、劇場でお逢いしましょう!

サイレントヒル

2005/アメリカ/日本/カナダ/フランス/126分/配給 : 松竹
監督:クリストフ・ガンズ 撮影:ダン・ローストセン 出演:ラダ・ミッチェル ローズショーン・ビーン ローリー・ホールデン デボラ・カーラ・アンガー

2006年7月3日号掲載

< M:i:III(2006/7/25) | 雪に願うこと(2006/6/19)>

▲このページの先頭へ


w r i t e r  p r o f i l e
turn back to home | 電藝って? | サイトマップ | ビビエス