時をかける少女

 今、映画界は夏休み映画シーズン真っ盛りですね。今年も超大作・話題作・小品と様々な作品が公開され、映画ファンとしては嬉しい限りです。

 そんな中、私がこの夏のイチオシとしてご紹介したい作品が『時をかける少女』。

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 筒井康隆のあまりにも有名な原作を長編アニメーション作品として映画化したものです。

 この原作は、これまでにも度々映像化されており、その始まりは1972年。この年、『タイム・トラベラー』というタイトルでテレビドラマ化され、続けて『続タイム・トラベラー』という続編も製作され人気を博したと聞きます。その後、1983年に原田知世主演の角川映画が製作・公開され大ヒットを記録しました。その後、1985年には南野陽子主演でテレビスペシャルドラマとして、1994年には内田有紀主演のテレビミニシリーズドラマとして映像化され、更に1997年には、角川春樹の映画界復帰第一作として再度映画化されたものです。今回が実に7度目の映像化(『続タイム・トラベラー』を含む)となる本作ですが、この度重なるリメイクの軌跡からも、この原作が <時を越えて愛されてる作品> であることがわかります。(この他に『タイム・リープ』という作品もありますが、原作は高畑京一郎による同名小説であり別物。ただ、『時をかける少女』にインスパイアされたものであろうことは間違いないところでしょう。映画版の監修は1982年版『時をかける少女』の監督を務めた大林宣彦が担当しています)

 とはいえ、正直なところ「これまでに何度もドラマ化・映画化されてきた作品で新味がないなぁ……」と、当初は観賞に乗り気ではありませんでした。世評が高いことは聞き及んでいましたが、どうももう一つ背中を押してくれるものに欠ける、と。アニメーション作品にそれほど造詣が深くないということも理由の一つとして確かにありました。「やはりスルーかな……」と思っていたわけですが、そんな時、知人・友人から「面白かったよ」「是非、見てよ」とご紹介頂き、「そんなに良いなら……」と、重い腰をようやく上げた次第です。

 いやあ、これは見逃さずに済んで良かった!! 本作は、この夏必見の日本映画の一本であると断言します。

<映画興行において最も宣伝力を持つのは口コミであり、最高の批評家は観客である> ということを強く再認識させられました。

【高校2年生の紺野真琴は、ひょんなことから <タイムリープ> という不思議な能力を身につけることに。 <タイムリープ> とは時間を跳躍する能力のこと。当初、半信半疑であった真琴だが、いつしか自在に <タイムリープ> を使いこなせるようになる。そんなある日、いつも一緒に遊んでいる男友達の一人:間宮千昭から突然の告白を受ける真琴。あまりの唐突さに戸惑い、真琴は <タイムリープ> を用いて、その告白をなかったことにしてしまうのだが……】

というストーリー。

 監督は『デジモン・アドベンチャー』シリーズや、『ONE PIECE ワンピース THE MOVIE オマツリ男爵と秘密の島』の監督を務め、日本アニメーション界の俊英と言われている細田守。

 広く知られたことではないと思うのですが、スタジオジブリの大ヒット作:『ハウルの動く城』は、当初、彼の監督で製作がスタートしていました。ところが、途中で細田監督が急遽降板してしまい、宮崎駿がその後を引き継いだという裏話(「制作上における見解の相違」が理由として発表されました)があります。実際にどのような経緯があっての降板であったのかは不明ですが、スタジオジブリの新作:『ゲド戦記』が批評的に芳しくない(興行的には大ヒット)状況の中、同時期に公開された本作が非常に高く評価され、公開規模は小さいながらも充分にヒットと言える成績を残しているところに、スタジオジブリの目利きは間違っていなかったのだなと感じます。本作一本で、細田監督の力量は多くの観客に知られることになったでしょう。それだけ、本作は素晴らしい!

 この夏休み期間中、3大アニメーション映画と呼ばれているのは、日本の『ゲド戦記』『ブレイブストーリー』とアメリカの『カーズ』です。本作は、確かに話題性や前評判の部分ではこの3大作にひけをとりますが、内容では決して負けていないのではないかと思うのです。(3大作全てを未見ではありますが……)

 本作は、意外なことに純然たるリメイク作品ではなく、筒井康隆の原作にあった <タイムリープ> という発想を活用した別物と見ていいでしょう。女子高生がヒロインであることは同じですが、ストーリーは原作やこれまでの映画版とは全く異なった展開となっています。<タイム・リープ> の際に漂うという有名なラヴェンダーの香りさえも本作には登場しません。そのため、本作は、原作やこれまでの映像化作品に親しんできた方にとっても、新鮮な面白さを提供してくれるのです。(真琴の叔母として登場する人物の名前が芳山和子であることに注目! 彼女こそ、これまでの『時をかける少女』の主人公であった人物なのです)

 ティム・バートンは 『PLANET OF THE APES 猿の惑星』 を手掛けた際、「この作品は『猿の惑星』のリメイクじゃない。リ・イマジネーションだ!」と語りましたが、本作にも同じことが言えるでしょう。

 作品内で時間軸を逆行するということは、観客は再度同じようなシーンを見せられるということになります。本作も、真琴が <タイムリープ> する度に同じようなシーンが複数回繰り返されるのですが、こういった展開は描き方が単調だと観客を飽きさせてしまうことに繋がってしまいがち。ところが、本作は見せ方が巧みかつ自然なため、そのあたりが気にならず、安心して楽しむことができます。

 前半はコメディ・タッチの軽快さを孕んでいて、場内では笑い声もチラホラ。後半ではすすり泣きがそこかしこで漏れるなど、全編で感情を大いに刺激してくれる作品に仕上がっていて、見事にノセられました。

 また、アニメーションという表現手法を巧みに活かした作品であることも、本作を称揚する上で書き漏らしてはならぬところでしょう。 <ジャパニメーション> という言葉が存在することからもわかるように、世界にその名を馳せる日本のアニメーションは、はっきりと現代日本文化の一つとして機能しています。その中にあって、本作は決して大仰すぎない潔さがあり、等身大のキャラクターが実に魅力的な作品となっていますが、決して実写版では表現し得ない、アニメーションならではの味に満ち満ちているのです。キャラクターの感情表現は、正にアニメーションならではのそれであり、実際にはありえないであろう「うわーん!」という登場人物の泣き声の表現など、その最たる物と言えます。アニメーションだからこその表現に満ちた本作を目の当たりにして、 <ジャパニメーション> の力量に感嘆すると共に、老若男女問わず楽しめるであろう本作の間口の広さも広くアピールしたいものです。

 決して大風呂敷を広げすぎることなく、女子高生の小さな青春恋愛物として、確信を持ってミニマムなアプローチを施しているところにも好感を持ちました。いくらでも荒唐無稽に広げ得る設定であるにも関わらず、あくまで <日常> を中心に据えた展開には、<現在(いま)> という時制こそが重要であるという作り手のメッセージを見た思いがします。そのメッセージを伝える上で、<オタク的> という、些か書くに抵抗のある言葉を持ってしばしば形容される難解さが本作には全くないというところも重要な事実でしょう。

 細部には辻褄が合わないと思える部分もチラホラありますが、それは好意的な推測によって何とでも補える範囲に収まっています。そういった細部に対する疑問以上に、本作の魅力が大きく勝っているのです。

 演出面では、ごく短い時間(1分未満)の間に、それまでに映像として呈示されることのなかった登場人物の数ヶ月に渡る過去を、フラッシュバック的なモンタージュで一気に見せきった部分が強く印象に残ったものです。その過去時制映像の断片を緻密に積み重ねて濃縮し、そこに断片的な台詞を重ねることによって、主人公たちの <現在> の心境を見事に説明し得ているのですから驚きました。無駄なシーンがただの一つもない! これを演出というのだなあと目から鱗の心境です。

 楽しくて、おかしくて、そしてこれ以上ないほど切ないSF青春恋愛物語である本作は、終盤で観客の自然な落涙を誘いますが、それがどうしようもなく悲しいだけの涙ではないのです。「現在(いま)の切なさ・悲しさの先に、明るい未来が待っている。ならば、その未来のために現在を精一杯頑張って生きよう!」という、非常に前向きな姿勢が本作には溢れていて、切ない物語であるにも関わらず、観賞後は晴れ晴れとした心境で劇場を後にしたものです。

「○○で待ってる」

 ラスト近くに用意されている、とあるキャラクターのこの台詞が大変印象的でした。これからご覧になる方のために、伏字を用いることにしますが、この台詞に込められたパラドックス的な感触と、その優しさに、思わず胸が熱くなり、涙を禁じ得ませんでした。

 7月中旬から公開されている本作。既に公開が終了した劇場も多いですが、これから11月にかけて全国で順次公開されるとのことですから、ご興味を持たれた方は是非ご覧下さい。貴方にとって珠玉の一本となることをお約束します。

 それでは、また劇場でお逢いしましょう!!

時をかける少女

2006/日本/カラー/100分/配給:角川ヘラルド映画

監督:細田守 原作:筒井康隆『時をかける少女(角川文庫刊) 脚本:奥寺佐渡子 美術監督:山本二三 音楽:吉田潔  キャラクターデザイン:貞本義行  声の出演: 仲里依紗 紺野真琴

2006年8月21日号掲載

< プルートで朝食を(2006/9/11) | ゆれる(2006/8/7)>

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