銀幕ナビゲーション-喜多匡希

へばの

【 作り手は観客を生み出す努力をしろ! 
そう、『へばの』のように!!】 あとで読む

へばの

 第81回アカデミー賞授賞式が行われ、予想のほとんどが外れて赤っ恥の筆者である。まったく恥ずかしい限りであるが、外れてしまったものは仕方が無いと半ば開き直ることにしたい。前進あるのみである。

7つの贈り物

 それにしても忙しい。“貧乏暇なし”とはよくいったもので、時間が幾らあっても足りない。従来の、「新作映画を鑑賞して映画評を書く」のに加え、最近ではインタビュー取材も増えた。そこに、毎月一度の映画イベント主宰や自主映画製作への参加、ラジオのレギュラー出演が加わり、実に慌しい。更に、先週末から【シネ・ドライブ2009】が開幕し、今週末には【大阪アジアン映画祭2009】が開幕、おまけに来週末には【おおさかシネマフェスティバル】も開催される。いずれも取材することになっており、今はその準備に追われている。

 外国人監督の取材に向けて、英語字幕のDVD(日本語字幕なし)を鑑賞し、英語資料を読む。ベテランの映画記者ならば何のことはないのだろうが、こちらはまだ駆け出しの身。初めてのことばかりで、時間ばかりがかかってしまう。能率が悪い。そういった中、インディーズ映画の祭典である【シネ・ドライブ2009】には、筆者が製作に関わった作品も参加しており、その他、友人・知人が関わっている作品も数多く上映される。そのため、横のつながりを活かして、紹介・宣伝の協力を募るなどしている。初めてづくしの戸惑いの中、通常の新作試写に足を運ぶ時間がなかなかとれず、青息吐息といった有様……

7つの贈り物

 とまあ、こういった目まぐるしい状況の中、合間を縫ってこの原稿を認めているわけだ。忙しさの中で、時折ふと逃げ出したくなってしまうほどだが、そうしないのは一重に映画が好きだからである。好きでなければ、とても出来ない。

 そんな中、先日、常日頃から漠然と抱えていた意識がブワっと立ち上がってきた。それは【興行に向けて、作り手は何をしているのだ!?】という腹立たしさを孕んだ疑問である。作品の宣伝において、作り手の姿が見えてこないのだ。全国ロードショーの作品ならまだしも、そうではない作品にその傾向は顕著である。

 映画が観客に届くまでには、大きく分けて4つの行程がある。【企画・構想→製作→宣伝→上映】だ。この内、【製作】が終了した段階で、役目を終えたと勘違いしている作り手が多いように感じるのである。【宣伝・上映=興行】だが、この【興行】を疎かにしている作り手が、だ。

 自主映画においても、それは同じこと。HPやブログで宣伝したり、映画祭に出品したりというくらいは誰でもする。それは確かに努力ではあるが、もっともっと出来るだろう。映画祭に出品して、賞が転がり込んでくるのを、ただ口を開けて待っているだけではいけないのだ。チラシを手配りするくらい出来るはずなのに、そんな姿、ほとんど見たことがない。

 今、映画興行は厳しい。もう何年も前から厳しい。そんな中、作品がコケると「もう映画の時代じゃないから」だとか、知ったような口をきく。それが当たり前のように自己弁護する。なんとも情けないではないか。どうして自らの手で観客を生み出そうとしないのだ。文句はできるだけのことをやった上で口にしろ、と言いたい。そもそも、そういった作り手たちは本当に映画が好きなのだろうか? 【映画が完成するのは人の目に触れた時である】という大原則を忘れているとしか思えない。映画は観られてナンボのもの。ならば、せめてその存在を知ってもらわなくては意味が無い、話にならない。それなのに、興行をナメている作り手が多過ぎる。自主制作に関わったことで、初めてこの身で知った現状である。これではただの垂れ流しである。垂れ流しにするなら映画なんて最初から撮らなければいいじゃないか!!

7つの贈り物

 映画は作り手にとって子どもである。ならば、作り手は映画の親だ。興行まで世話をするのが当たり前であろう。親になれ、親に!!

 といった中、『へばの』という作品に出逢った。東京ではポレポレ東中野で公開され、健闘といえる成績を残した。公開期間も、当初の予定より延長されたと聞く。一般的にはほとんど知名度のない低予算の自主映画であるこの作品が、好成績を収めた背景には【自主製作&自主配給】という姿勢にある。team JUDASという10名ほどのグループが、製作から興行までを全て自分たちの手で行っているのだ。東京だけでなく、大阪興行も同様である。と聞いても、「本当だろうか?」という疑念があった。東京ではそうだったのかも知れないが、大阪で本当にそのような宣伝を行っているのだろうか?xと、これが本当だったのである。先日、試写で鑑賞させていただいた帰り、某ブックカフェに立ち寄り、いつものように店主と映画談義を楽しんでいたら、『へばの』の木村文洋監督自ら、チラシを持って来店したのだ。そして、公開初日の夜、大阪・十三の第七藝術劇場で『岡山の娘』の初日を鑑賞したところ、帰り際、劇場の出入り口で1人の青年が『へばの』のチラシを手配りしていた。聞けばボランティア・スタッフだとのこと。『岡山の娘』の福間健二監督が、『へばの』に推薦コメントを寄せている関係もあるのだろうが、この地道な努力は現在の映画興行界にあって目立つ。「おっ! やる気あるじゃないの!!」と嬉しくなった。

7つの贈り物

『へばの』は、核燃料再処理工場を擁することで有名な青森県六ヶ所村を舞台に、一組の男女が繰り広げる狂おしいまでの愛の彷徨を描いた意欲作である。2006年に発生した工場での内部被曝事故に着想を得ているが、決していたずらな作品ではない。ここには木村文洋という、一般的にはほとんど無名の監督による紛う事なき表現がある。幾つかのほころびもあれば、演出を決定的に誤ってしまっている箇所もあるが、それでいて尚、すこぶる魅力的であるのは、本作が徹頭徹尾の“映画”であるからだ。

 この魅力的な作品を筆者は大いに買う。『へばの』、当たって欲しい!

へばの http://teamjudas.lomo.jp

・第39回 カイロ国際映画祭International competition for Digital Feature Films 部門 シルバー・アワード受賞!
・第38回 ロッテルダム国際映画祭 Bright Future部門正式出品 ほか、映画祭上映多数

2008年 日本 81分 配給:team JUDAS
監督・脚本:木村文洋(ぶんよう)
出演:西山真来、長谷川等、工藤佳子、吉岡睦雄 ほか

【シネ・ドライブ2009 関連企画】
3月7日(土)〜20日(金) PLANET+1にてレイトショー
(第1週→21:00〜 第2週→19:00〜)

2009年2月22日号掲載 このエントリーをはてなブックマーク

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