『アメリカン・ギャングスター』
『ウォーター・ホース』

毎月1日は映画の日!

 お正月映画の公開が一段落し、めっきり公開本数が減ったかと思いきや、一月と経たぬ内にもう公開ラッシュが始まっています。ここ最近では、『アース』『スウィーニー・トッド〜フリート街の悪魔の理髪師〜』『人のセックスを笑うな』が映画興行界を賑やかにし、これからも続々と話題作が待機しているという状況。2008年も映画界は休む暇がなさそうです。

 さて、当コラムは私が実際に鑑賞した上で、皆さんにおすすめしたいという作品を、毎回厳選してお送りさせて頂いております。しかし、その作品選択に頭を抱えることがしばしば。「コノ作品も、アノ作品も御紹介したいのだけれど……」という中で一本の作品を選ぶのですから、「紹介できなくてごめんよ……」と、採り上げることのできなかったお気に入り作品たちに申し訳なく思うというわけです。例えば、こ2週間で公開された作品ですと、イギリス発の大人気コメディの劇場版第2作『Mr.ビーン カンヌで大迷惑?!』、松竹らしい秀作『母べえ』、メキシコ五輪銅メダリストとして知られたボクサー:森岡栄治の生涯を描いた下町人情伝記映画『子猫の涙』の3作品も広くおすすめしたい作品なのです。せめて、おすすめ作品としてタイトルだけでも御紹介しておきますね。

 さて、皆さんは「映画の日」というのをご存知でしょうか?

 現在では、【毎月1日】が「映画の日」とされています。1月から12月まで各月1日。1年で計12日設けられているこの「映画の日」は、「映画サービスデー」とも言われ、【誰でも1,000円で映画を鑑賞出来る】という、映画ファンにとってはたまらなく魅力的な一日なのです。通常、日本における映画館の入場料金は、基本的に一般大人料金が1,800円ですから、映画の日に鑑賞すれば800円も得をするというわけです。仮に、パンフレットを購入したとしても、当日料まだお釣りがくる程。また、前売り券のほとんどが1,300〜1,500円するということを考えても、更にお安いわけです。利用しない手はありませんよね。「映画の日」は、一部で実施していない劇場もありますが、日本全国ほとんどの劇場で適用されていますから、このサービスを知っているのといないのとでは大違い。かくいう私も、学生時代などは、あらかじめ「映画の日」には他の予定を入れないようにして、その日は丸一日かけてハシゴ鑑賞に臨んだということも少なくありません。映画の日に5本鑑賞したとすれば、それだけで4,000円の節約になります。友人たちの間で、無類の映画好きとして知られていた私ですが、なにせ貧乏学生でしたから「少しでも節約して1本でも多くの映画を見よう!」と心がけていたもものでした。そんな私にとって、この「映画の日」は、大変嬉しいサービスだったのです。

 この「映画の日」。私が学生の頃は「毎月第一水曜日」であったと記憶しています。それも大阪での話。地域によって実施日がバラバラであったそうです。しかし、現在では日本全国で【毎月1日】と決められました。曜日ではなく、日付で規定されたことによって、「もしも1日が土曜日だったら、最新作を封切初日に1,000円で鑑賞できる」という嬉しい可能性に期待するようにもなりました。ちょっとしたクジ引き気分を味わうことが出来るようにもなったのです。

 さてさて、それでは、現在のところ、直近の「映画の日」は2月1日となります。金曜日ですね。日本の新作映画封切日は基本的に土曜日となっていますから、本来、この日に封切られる新作映画というのはありません。「今回の『映画の日』は新作封切の前日かあ……」と、ちょっとした欲張り根性から苦笑いがこぼれかけましたが、新作映画の公開スケジュールを確認してみると、嬉しいことに2月1日に封切られる作品が2本あるのです。東宝東和配給の『アメリカン・ギャングスター』と、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント配給の『ウォーター・ホース』。どちらも、アメリカで大々的に公開された大作ですよ。

 実は、ここ最近、金曜日に封切られる作品がちらほら出てきたんですね。主にメジャー会社の作品ですが、最近だと、ワーナーの『アイ・アム・レジェンド』、ディズニーの『ナショナル・トレジャー/リンカーン暗殺者の日記』、20世紀FOXの『AVP2 エイリアンズVS. プレデター』などが金曜日に封切られています。この上記3作品の場合、封切日が金曜日となったのは、【日米同時公開】という戦略があり、時差の関係上、日本は金曜日の封切となったに過ぎません。今回封切られる2作品は既にアメリカでは公開済となっていますから、基本通り、2月2日の土曜日が初日である方が自然に思えます。では、なぜこの2作品がわざわざ慣例よりも一日公開を前倒しにして金曜日に封切られるのでしょう?

 配給会社に確認をとったわけではありませんが、これはもう「映画の日」を意識した結果という以外に理由が見当たりません。昨年公開の『オーシャンズ13』や『ダイ・ハード4.0』も金曜封切でしたが、共に人気シリーズの続編であり、一日早く公開することによって話題作りにもなるし、興行の上積みも期待できたわけです。そして、どちらも封切日は「映画の日」ではありませんでした。となると、『アメリカン・ギャングスター』と『ウォーター・ホース』の金曜日封切は、配給会社からの映画ファンに対する温かいプレゼントということになります。いやあ、これは嬉しい!! 【初日=1,000円】とは、なんとも粋なはからいではありませんか。せっかくですから、2月1日はこの2作品を中心に御覧になられることをおすすめします。私は、偶然にも、この2作品を既に試写で鑑賞させて頂いていますが、どちらもおすすめできる秀作となっています。紙数の都合もありますから、手短になりますが、今回は特別にこの2作品を御紹介しましょう。



© 2007 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.

『アメリカン・ギャングスター』は、『エイリアン』『ブレードランナー』『グラディエーター』で知られるリドリー・スコット監督の最新作です。全米ではボックスオフィス初登場1位を記録し、最終的に1億ドル突破のメガヒット作品となりました。1968年〜1970年代のニューヨークを舞台にした実録犯罪サスペンスです。

【黒人ギャングのボスにのし上がったフランク・ルーカスは、安価で高純度のヘロイン=“ブルー・マジック”の仕入れルートを開拓し、アメリカの麻薬王と呼ばれるまでになっていく。一方、ニュージャージー州所属のリッチー・ロバーツ刑事は、潔癖な性格で知られる高人物だが、警官による汚職が当然のこととしてまかり通っていたこの時代においては厄介者でしかなく、警察内部で孤立していた。そんな折、リッチーの気高さに惚れた検察官により、彼は麻薬捜査班のリーダーに任命される。警察内の汚職暴きにも繋がる任務であるがゆえに、周囲から敵視されつつも、任務を投げ出さないリッチー。懸命な捜査の末、フランク・ルーカスが捜査線上に浮き上がってきた。2人の男の生き様を賭けた戦いの結末とは?】というストーリー。

© 2007 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.  

 麻薬王フランクに、『グローリー』でアカデミー賞助演男優賞、『トレーニング・デイ』で同主演男優賞に輝いた名優デンゼル・ワシントンが、気高き刑事リッチーに、『グラディエーター』で同主演男優賞に輝いたラッセル・クロウが扮しています。『ザ・エージェント』で同助演男優賞を受賞したキューバ・グッディング・Jrの姿も。

 157分という長尺ですが、全くそうとは感じさせません。重厚な演出・緻密な脚本を、実力派俳優陣が素晴らしい演技で支えています。これはもう、リドリー・スコット版『ゴッド・ファーザー』とも呼べる仕上がり。彼にとって『グラディエーター』と並ぶ2000年代の代表作となることは間違いないでしょう。なぜ、『ゴッド・ファーザー』を引き合いに出したのかというと、本作が、ギャング側の血の絆(家族の絆)をしっかりと描ききっているからです。ただ単に、デンゼル・ワシントンとラッセル・クロウによる演技合戦が見もののサスペンス大作というわけではありません。その <家族> という重要な部分を、素晴らしき名演技によって表現したのは、83歳のベテラン女優ルビー・ディー。フランクの母を演じるこの小さき老女優が示す母性に思わず胸が熱くなったものです。彼女は、本年度アカデミー賞の助演女優賞にノミネートされていますが、巷では「ベテランだから花をもたせた」だの、「過大評価」だのという意見もちらほら。いえいえ。そんなことはありません。ルビー・ディーの演技は、掛け値なしに素晴らしい。本作の大いなる見所の一つですよ(俳優陣では、汚職刑事を演じて出色の存在感を見せるジョシュ・ブローリンもお忘れなく!)

 じっくりと鑑賞するにふさわしい大人の映画。これ、おすすめです。


『アメリカン・ギャングスター』が“男2人を中心とした重厚な大人のドラマ”なら、『ウォーター・ホース』は“老若男女問わず楽しめるファミリー向けファンタジー”。来る2月1日映画の日に封切られる2作品が、全く異なるタイプの作品というのも嬉しいところ。

【第二次世界大戦時のスコットランドはネス湖周辺が舞台。少年アンガスは出征した父親の帰りを指折り数えながら待っている。母と姉がいるが、彼の心の中は孤独に満たされていた。そんなある日、彼はネス湖から変わった岩を持ち帰る。その岩をナイフで削ってみると、中から青く光る物体が顔を覗かせた。ほどなく、その中から不思議な生き物が姿をあらわす。アンガスが持ち帰ったのは、ケルト民族に古くから伝わる伝説の生物“ウォーター・ホース”の卵だったのだ。アンガスは、ウォーター・ホースに“クルーソー”と名付け、誰にも内緒で育てようとするのだが……】というストーリー。

“ネッシー”ですね。ネス湖で撮られたという <恐竜らしき生物の陰が映った写真> で有名ですね。あの写真、御覧になったことがあるという方、かなり多いでしょう。近年になって、あの写真が捏造されたものだと判明し、<ネッシー存在説> に終止符が打たれてしまった感があります。私はその時思いました。「【いる・いない】の特定も大事なのだろうけれど、なんだかロマンがないなあ……」って。「【この写真は偽者でしたが、ネッシーはいるかもしれません】でいいじゃないか」と思ったわけです。本作は、その夢を映画化した作品です。きちんと、「あの写真、偽者だったんだろ?」「でも、いるんだよ」というシーンが用意されていますから、事実を全く無視した作品だというわけではありません。ここ、重要です。その、【いるかもしれない】というところに、夢やロマンがあるのです。それこそがファンタジーの根本ではないでしょうか? そういう意味で、この作品は、温かい志に満ちているんです。それは <可能性を信じる> ということです。 <全てを限定しない> ということです。そこからファンタジーが生まれるわけです。

 本作から想起するのは、『ドラえもん のび太の恐竜』や『E.T.』、『となりのトトロ』といった作品群。これらは全て、不思議な生き物(やロボット)と、人間の子どもの交流を描いた作品たちです。ドラえもんにしても、恐竜にしても、異星人にしても、トトロや猫バスにしても、<恐らく> 実際には存在しません。この <恐らく> というフラを持たせることで、その隙間に <夢> という宝物が生まれるんですよ。

 試写の帰り際、私は配給会社の方にこう感想を述べました。「こういう作品、ないといけないですよね。大人が子どもさんを連れて行って、そこで <夢> というものの存在を教えてあげられる映画、ないといけませんよ。良い作品でした」

 この <夢> というものは、子どもたちだけのものではありません。もちろん、大人にだって必要なものだと思っています。老若男女問わず楽しめる間口の広い作品としておすすめします。

 2008年2月1日(金)「映画の日」に封切られる2作品は配給会社からのプレゼント。あなたはどちらを御覧になりますか?

 それではまた劇場でお逢いしましょう!!

アメリカン・ギャングスター   http://americangangster.jp/

2007 AMERICAN GANGSTER 157分 アメリカ      
第80回アカデミー賞2部門ノミネート(助演女優賞・美術賞)
R-15指定作品
監督:リドリー・スコット 脚本:スティーヴン・ザイリアン 撮影:ハリス・サヴィデス 編集:ピエトロ・スカリア 音楽:マルク・ストライテンフェルト 出演:デンゼル・ワシントン/ラッセル・クロウ/キウェテル・イジョフォー/キューバ・グッディング・Jr

2月1日より、
東京:日劇1ほか
大阪:TOHOシネマズ梅田、梅田ブルク7、TOHOシネマズなんば、なんばパークスシネマほか
その他、全国一斉ロードショー

ウォーター・ホース   www.sonypictures.jp/movies/thewaterhorse/

ネス湖に眠った、ひとりぼっちの二人の想い
“一枚の写真”に隠された、壮大な感動秘話

2007 THE WATER HORSE: LEGEND OF THE DEEP 112分 アメリカ
監督:ジェイ・ラッセル 原作:ディック・キング=スミス『おふろのなかからモンスター』(講談社刊) 脚本:ロバート・ネルソン・ジェイコブス 撮影:オリヴァー・ステイプルトン 編集:マーク・ワーナー 音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード 出演:アレックス・エテル/エミリー・ワトソン/ベン・チャップリン/デヴィッド・モリッシー

2月1日より、
東京:サロンパス ルーブル丸の内、新宿バルト9、TOHOシネマズ六本木ヒルズほか
大阪:梅田ブルク7、TOHOシネマズ梅田、なんばパークスシネマ、TOHOシネマズなんばほか
その他、全国一斉ロードショー

2008年1月28日号掲載
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