『クリアネス』

先入観なんていらない!
監督+原作者インタビュー

クリアネス公式サイト


ケータイ小説!? 一瞬の躊躇

 配給オフィスの方から、「『クリアネス』って知ってる?」とお電話を頂いたのが、1月31日。「篠原哲雄監督の新作じゃなかったっけ? ケータイ小説の映画化でしょ?」と答えると、「そうそう! 凄いなー。知ってるんやねぇ!」と感心して頂きましたが、あとはラブストーリーだということくらいしか知らなかった私… 「これ以上突っ込んだ質問を受けるとボロが出てしまう!」と内心ヒヤヒヤしたものです(笑)「ちょっと急だけど、2週間後にインタビューがありますのでお願いできる?」とのこと。ここで、一瞬躊躇したことを正直に告白しておきましょう。ケータイ小説というものに、僕は相当の苦手意識を持っていたのでした。そこで「これがイイのよ! とにかく一度見てみない?」との提案。薦められるまま、とにかく鑑賞してみることにしました。するとこれが担当さんの言葉通りにイイ! すぐさま「取材させて下さい!」と連絡しました。配給さんは「良かったでしょー」とニコニコ。さすがは私の好みをよく御存知でいらっしゃる。

実際に触れてみないと、
ホントのところはよくわからない!

 簡単にあらすじを御紹介しておきましょう。

【自宅でウリ(売春)を行っている女子大生のさくらは、窓から見える向かいのマンションの一室を覗いている。出張ホストの事務所だというその部屋によくいる金髪の美青年が気になって仕方がないのだ。さくらは彼にレオという愛称をつけ、来る日も来る日も彼を覗き見ていた。ひょんなことから2人は急接近し、互いに恋心を募らせていく。さくらには2年以上付き合っているコウタロウという彼氏がいるが、レオに対する気持ちはもう止めることができないほどになっていた。しかし、レオは一向にサクラを抱こうとしない。「なぜ?」「好きじゃないの?」 そんな折、サクラはホスト事務所のオーナーから、衝撃の事実を耳にするのだった…】

 原作は『クリアネス〜限りなく透明な恋の物語〜』(スターツ出版)で、第一回ケータイ小説大賞を受賞した作品。2007年2月に発売され、現在発行部数20万部を突破しているベストセラーとなっています。著者は十和(とわ)というペンネームの女性作家で、この作品が処女小説だそう。

 監督は篠原哲雄。1993年に『草の上の仕事』という中篇作品で劇場用映画監督デビューし、いきなり日本映画プロフェッショナル大賞新人賞を受賞し、以後コンスタントに新作を発表。代表作に『月とキャベツ』『はつ恋』『命』『深呼吸の必要』『天国の本屋〜恋火〜』『地下鉄(メトロ)に乗って』などがあります。私、好きなんです。この監督の作品が。特に『月とキャベツ』と『深呼吸の必要』が好きですね。あと、あまり知られていないように思いますが『洗濯機は俺にまかせろ』という作品を心から愛して止みません。
 さくらに扮するのは杉野希妃。韓国映画『恋愛の目的』や『絶対の愛』に脇役で出演した経験がありますが、国内作品&メイン出演は初という新人さんです。レオには『あそこの席』『あかね空』の細田よしひこ、コウタロウには『クローズZERO』『ヒート アイランド』の小柳友がそれぞれ扮しています。二人とも今売り出し中のイケメン俳優。ちなみに小柳友はあのブラザー・トムの息子さんだそうです。ほかに斎藤工・森下能幸・高田純次・哀川翔らが出演。
 冒頭、さくらがウリをしていて、なおかつレオが出張ホストであるというキャラクター設定に、一瞬身構えてしまいましたが、いつしか時を忘れて見入っていました。本作は、作品の芯がすっきり通ったシンプルで純粋なラブストーリー。ラストは晴れ晴れとした気持ちで涙がハラハラ流れる。実に気持ちの良い感動に包まれたのでした。嘘じゃないですよ。こういう作品を拾い物というのです。先入観は偏見にしか過ぎません、実際に触れてみないことには、ホントのところはよくわからない。そんな当たり前のこと、普段、ついつい忘れてしまいがち。この作品は「先入観なんてただ邪魔な物にしか過ぎない」ということを教えてくれました。

 すっかり嬉しくなってしまった私は、インタビューのために原作本を買い求め、読了。これがまた良いのです。それまで持っていたケータイ小説に対する苦手意識が一気に吹き飛んでしまいました。シンプルでピュアな物語がそこにあります。文章表現も予想を裏切って巧み。そして何よりキャラクターの性格づけが自然なので、感情移入できるのです。一言で言うと「イイ話」。うん、実にイイ話なのです。
 そして、2月14日。インタビュー当日はバレンタイン・デー。「作品にぴったりだな」とニンマリしながら会場に足を運びました。インタビューさせて頂くのは、監督の篠原哲雄さんと原作者の十和さん。会場は松竹株式会社関西支社です。
 
 篠原哲雄監督は実にクレバーな印象。淀みなく御自分の思いを即座に言葉にされる方でした。十和さんはとても美人! そして、やはりとても純粋な方ですね。作品から受けた印象そのままの素敵な方でした。


三角関係の話が好きなんですよ。

―――今回、ケータイ小説の映画化ということですが?

篠原監督 依頼して下さった久松猛朗さんは『深呼吸の必要』や『天国の本屋〜恋火〜』のプロデューサーでもあるんですが、原作を渡されて、読んだら面白かった。で、「やります」と。最初はインターネット配信を予定していた作品だったんです。途中で劇場公開という話になったんですよ。でも、劇場公開作品だからどうということはないですね。楽しかったらいいかなって。ただ、この作品は一秒間30フレームのビデオ撮りなんですよ。劇場公開するということでフィルムに落としたんですが、そうとわかっていたら24P(1秒間24フレーム)で撮ったんですけどね。

―――原作のどこに惹かれましたか?

篠原監督 三角関係の話が好きなんですよ。コウタロウっていうキャラクターは、いわゆる最近の、この10年間で出来上がってきた男性像なんですね。守りに入るというか、優しいというか。で、さくらはそんなコウタロウにどこかで物足りないという。無意識にというか、漠然とそう感じているんです。その隙間にレオが入ってくる。レオはある種の強さを持っていて、これも一つの平成の男性像ですよね。

―――十和さんにとっては『クリアネス』が処女小説ですが、その作品が映画化されるということに対してどうお感じになりました? また、現場も御覧になったとのことですが?

十和 嬉しかったですね。もう、ただただ嬉しかったです。現場に行くまでは不安で仕方なかったんですよ。でも吹き飛んでしまいました。

―――原作のあとがきを読んで、十和さんは読者をとても大事にされる方だなという印象を受けました。4ページほど書いてそのままになっていたものを、ある日きちんと仕上げてみようと思い立たれたということですが、その決め手となった背景にはなにかきっかけがあったのでしょうか?

十和 私、小説ってそれまで書いたことがなかったんですよ。正直な話、小説でなくてもよかったんです。たまたま小説だったということなんですよ。これ、ホントです。ただただ表現したい思いがあったんです。その中で、読者の方が応援してくれたんですね。だから最後まで書けたんだと思います。二人三脚だったんですよ。読者と私の二人三脚で出来たのがこの『クリアネス』という作品です。だから、読者の方ががっかりしない映画になって欲しいなと思っていました。結果、すごく嬉しいです。


そもそも、冒頭からして、普通有り得ない。

―――篠原監督は、映画化にあたって「ここを見て欲しい」というところはありますか?

篠原監督 指輪を重ねるシーンですね。難しかったんですよ。あれは小説だと文字で説明できるけど、映画だと画で見せなくちゃいけない。「指輪を重ねることによって、『一緒になる』という感覚」を想像に任せるのではなくて、視覚的に表現しなくてはいけないので苦労しました。あと、コウタロウに対してさくらが「貴方じゃない」と。その伝え方ですね。

―――コウタロウが実にイイですね。キャラクターもイイし、小柳友さんの演技も実にイイですよね。

篠原監督 イイでしょー。コウタロウとさくらの関係がリアルだし。イマドキの男の子の弱さというか。そういう部分が実に良く出ていますよね。

十和 コウタロウは原作と見た目のイメージが違うんですよ。

―――うん。違いますよね。原作だともっと短髪で行儀が良いというか、そんなイメージですよね。

十和 そうなんです。だから最初、「コウタロウのイメージじゃないな」と思ったんですけど、凄く良かったですね

―――夕日が印象的です。与那国の夕日ですね。あれは実際に与那国で撮られたのですか?

篠原監督 ロケハンで与那国島に行ってみたらホントにキレイで。もう有り得ないくらいキレイなんですよ。それで「もうここしか有り得ない!」って。だから与那国で撮りました。ほかは考えられなくなっちゃって。

―――あの夕日が、ラストシーンをより引き立てていると思います。そして、あのラスト、どこかファンタジーのような印象もありますね。

篠原監督 うん。ファンタジーとも言えますよね。そもそも、あの冒頭の設定ですね。ウリをしている女子大生が、窓から見える向かいのマンションにいる出張ホストの美青年を覗いてるっていう。凄い偶然というか、普通有り得ない。これもファンタジーというか(笑)。でも、覗きという要素は面白いですね。アルフレッド・ヒッチコックもそうだし、あとクシシュトフ・キェシロフスキの…なんだっけかな?

―――『アマチュア』ですね。

篠原監督 そう。それ!

―――「覗き」というのは、実に映画的な話法の手段だと思います。最近だと『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』にも覗きの要素があって、<ヒッチコックして> いました。今タイトルが上がった作品はサスペンスやミステリーですけども、ラブストーリーと覗きも相性が良いですよね。パトリス・ルコントの『仕立て屋の恋』を思い出しました。


さくらが自転車に乗るシーンが大好きです。

―――ところで、正直な思いをぶちまけてしまいますけど、私はケータイ小説に苦手意識を持っていたのですが、決してお世辞ではなく、この作品は映画も原作も実に良かったです。最初にキャラクターの設定がわかった時は「どうしよう…」と思いましたけど、中身はとてもまっすぐで純粋なラブストーリーですよね。露悪的じゃないし、リアリティもあって。でも、どこかでファンタジー的な浮遊感もあるという。

篠原監督 さくらやレオのウリや出張ホストだというのは、ただの記号なんですよね。ただ、沖縄で二人っきりになったさくらとレオがなんにもしないっていうのは、男として考えた時に「何もしないわけないだろう」と思いましたけどね。あの状況でプラトニックという点に対してです。人間としてのリアリティという部分で、「どうなんだ?」と。

―――それもファンタジー(笑)。

篠原監督 そう。ファンタジー(笑)。

十和 そうなのかなぁ…(と悩む)

―――主演の御三方に関してはどのような印象をお持ちになりましたか?

篠原監督 コウタロウ、いいよね。小柳君、イイ。さくら役の杉野さんはもうちょっとトンガッた人がやっても良いかなと思ったんですよね。演技経験も多くないから。決して下手じゃないんですよ。周りにちゃんと合わせた演技が出来る人だし。男の子2人が上手いだけにちょっと不安はありましたね。でも、実際に撮ってみると、女子大生と売春風俗の間のバランスをちゃんと表現できてた。ここにはね、細田君のリードもあるんです。彼は演技を考えて組み立てるということが既にできる段階にいるからね。

十和 細田さんは、もうレオそのままという感じで。彼もイメージとはちょっとだけ違うところはあったんですけど、作品を見てみたら「レオだ!」って思って。もう、憎いくらいにレオしてるんですよー。原作にないセリフもあるんですけど、それがまたレオなんですよね。「うん、レオならここでそのセリフ言うよ。どうしてそんなにレオなの?」って思っちゃいました。あと、さくらの世界っていうのは、最初から私の中にあった世界なんです。でもこの映画はさくら以外の人の視点も入っていますよね。そこが凄く良かったですね。

―――原作の十和さんも、主演の俳優さんたちも皆お若いですけれど、スタッフの方々はベテランが多いですね。編集は大島ともよさんでしたか。『津軽じょんがら節』や寺山修司さんの『草迷宮』、『魔女卵』に『幻の光』…

篠原監督 あと、大島渚作品の多くも手掛けてらっしゃいますね。

―――脚本は『時効警察』で話題の山田あかねさん。新旧の才能が一同に会した作品という印象があります。さて、最後になりますが、観客の方々に向けてのメッセージをお願いします。

十和 とても好きなシーンがあります。もう、文字が映像になる嬉しさというのがあって、もう全部好きなんですけど、特にさくらが自転車に乗るシーンは大好きです。このシーン、是非見て頂きたいですね。

篠原監督 人の感情をどうやって揺さぶるか。また、目に見えるものではなく、その奥にあるものをどうやって表現するかを意識しました。さくらの表情にそれが表れていると思います。そこを御覧頂きたいですね。

―――本日はありがとうございました。

 

 青春映画・恋愛映画の旗手・篠原哲雄監督が手掛けた映画『クリアネス』は、十和さんが原作に込めた思いを損なうことなく、見事に映像化してみせた『もうひとつの〜限りなく透明な恋の物語〜』。おすすめしますよ。

 それではまた、劇場でお逢いしましょう!

 

PS.
2月20日に書籍『若松孝二 実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』が朝日新聞社から発売されます。映画『実録・連合赤軍 あさまさんそうへの道程』(祝! ベルリン国際映画祭2冠!!)をより深く理解するためのガイドブックにして、詳細な歴史資料としても役立つ1冊。恐れ多くも、私も執筆陣の一人として名を連ねさせて頂いております。価格は1,400円+税。全国書店・公開劇場にてお買い求め頂けます。12月13日に晋遊社から発売された『ボクらの平成20年史』(平成20年間の日本映画界についてのコラムが掲載されています)と併せて宜しくお願い致します。
 

クリアネス http://www.clearness.jp/

 つないだ手は、きっと温かい。

2007 112分 日本
監督:篠原哲雄 原作:十和『クリアネス 〜限りなく透明な恋の物語〜』(スターツ出版) 脚本:山田あかね 撮影:永森芳伸 編集:大島ともよ 音楽:仁科亜弓/今谷忠弘 出演:杉野希妃/細田よしひこ/哀川翔/小柳友/山田幸伸/高久ちぐさ/宮本裕子/伊藤久美子/斎藤工/高田純次/森下能幸/矢柴俊博/オーケイ/チョップリン/北村三郎

2月16日より
東京:渋谷ユーロスペース、MOVIX昭島、MOVIX亀有
大阪:なんばパークスシネマ、MOVIX堺、MOVIX八尾、109シネマズ箕面
京都:MOVIX京都
兵庫:109シネマズHAT神戸
x奈良:MOVIX橿原
ほかにて全国公開中
(2月23日封切となる劇場もあります。公式HPで御確認下さい)

2008年2月18日号掲載
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