銀幕ナビゲーション-喜多匡希

白い馬 & 赤い風船

【半世紀以上の時を越えて愛される
珠玉の名作】 あとで読む

白い馬 & 赤い風船
白い馬 & 赤い風船
© Copyright Films Montsouris 1953 & 1956

『赤い風船』。この宝石のような大傑作を、筆者は中古購入したビデオソフトで何度も何度も鑑賞した。今から半世紀以上も前に作られた作品だというのに、全く古く感じない。全編に瑞々しい感動が満ちている。しかし、この作品は、先述したビデオソフトが1度発売されたのみで、とうの昔に廃盤になったきりで、現在ではプレミア価格がついたレアアイテムになっているという。その後は、DVDも発売されず、劇場でのリバイバル上映も行われることがなかった。何でも権利問題が原因だったとか。これほど素晴らしい作品であるにも関わらず、封印状態にあるというのは、観客にとっても、作品にとっても大いなる不幸に相違ない。映画という宝箱にかけられた <大人の事情> という忌まわしい鍵である。何度観ても飽きることのないこの傑作を、ビデオで繰り返し見ながら「スクリーンで観たい!!」と願う日々が続いた。

 筆者は、DVD・ビデオ・TVなどでの映画鑑賞を決して否定しないが、映画はやはり映画館で鑑賞するのが一番だと考えている。それがこの『銀幕ナビゲーション』という連載タイトルの由来でもあるほどだ。来客や電話によって鑑賞を妨げられることもなく、悠然とシートに身を委ねるという愉しみ。場内が暗くなり、スクリーンに生命が宿る瞬間の感動。そこから始まる様々な作品との出会いは筆舌に尽くし難いものがある。台詞が聞き取れなかったからといって巻き戻すことの出来ない映画館での鑑賞は、必然的に集中力を高め、真剣に作品と向き合うことに繋がる。大の愛煙家である筆者が、タバコなしで数時間を過ごせるのは、映画鑑賞時と睡眠時しかないほどだ。それだけの魅力をスクリーンは有している。となれば、心から愛して止まない『赤い風船』をスクリーンで見たいと感じるのは当然の欲求である。しかし、それが叶わない。この悔しさに歯軋りしながら年月ばかりが空しく過ぎ去っていった。

白い馬 & 赤い風船
© Copyright Films Montsouris 1953
白い馬 & 赤い風船

 ところが、2005年のカンヌ国際映画祭監督週間に、『赤い風船』と、その前作である『白い馬』のデジタル・リマスター版が出品されるという情報が飛び込んできた。既に同映画祭で出品歴のある作品が、回顧上映ではない新作枠で2度目の出品がなされるというのは、映画祭史上初の快挙である。開催国であるフランスの作品であるとはいえ、カンヌは世界最大の映画祭。この事実は、いかにこの作品が世界中から愛されているかを如実に示していると言えよう。

 あれから3年。遂にその2作品が日本でも劇場公開されることとなった。これまで上映を妨げていた権利問題もクリアされたらしい。喜ばしいことである。

 念願叶って、スクリーンで出会った『赤い風船』は、想像以上に素晴らしかった。最新技術で鮮やかに蘇った映像に目を見張り、食い入るように鑑賞。同時上映の『白い馬』は初見だったが、こちらも負けず劣らず素晴らしい出来栄えで、大いに満足したものである。

白い馬 & 赤い風船
© Copyright Films Montsouris 1956

 この2作品。物語の展開はほぼ共通している。『白い馬』は少年と白い馬、『赤い風船』は少年と赤い風船の間に芽生える友情を通して自由を希求する。どちらの作品も、その友情を引き裂こうとする心無い者が現れ、少年はかけがえのない友だちを守ろうとする。『白い馬』では広大な大地を、『赤い風船』では迷路のようなパリの下町を逃げ回る。愛らしい友情が微笑ましい前半と、悲壮な展開に心が痛む後半。そして、その逃避行は、『白い馬』では大海原に溶け込み、『赤い風船』では大空に翔け上がり、それぞれ大いなる寓話へと昇華される。そこに広がる感動! これこそ映画!!

 映画の天才詩人アルベール・ラモリスが遺した2つの宝石。マスター・ピースという言葉に相応しい不朽の名作を、是非劇場で御覧頂きたい。いつまでも色褪せることない感動と出会えることを約束しよう。

 この作品を御紹介できる幸福を噛み締めつつ、心の底からおすすめする。

白い馬 & 赤い風船 
http://ballon.cinemacafe.net/
(『白い馬』『赤い風船』『ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン』3作品共通HP)

※デジタルリマスター版での2本セット上映

白い馬
原題:『CRIN BLANC: LE CHEVAL SAUVAGE』
1953年 フランス 40分 配給:カフェグルーヴ=クレストインターナショナル
監督:アルベール・ラモリス
出演:アラン・エムリー ローラン・ロッシュ フランソワ・プリエ パスカル・ラモリス
ナレーション:ジャン=ピエール・グルニエ

☆1953年カンヌ国際映画祭 短編グランプリ受賞
☆1953年ジャン・ヴィゴ賞受賞
☆2007年カンヌ国際映画祭 監督週間出品(デジタルリマスター版)

赤い風船
原題:『LE BALLON ROUGE』
1956年 フランス 36分 配給:カフェグルーヴ=クレストインターナショナル
監督:アルベール・ラモリス
出演:パスカル・ラモリス サビーヌ・ラモリス ジョルジュ・セリエ パリの子どもたち

☆1956年カンヌ国際映画祭 短編パルム・ドール大賞受賞
☆1956年アカデミー賞 脚本賞受賞
☆1956年ルイ・デュリック賞受賞
☆1956年フランス・シネマ大賞受賞
☆2007年カンヌ国際映画祭 監督週間出品(デジタルリマスター版)

【上映スケジュール】
7/26(土)〜 東京:シネスイッチ銀座
       大阪:梅田ガーデンシネマ
8/上予定   兵庫:シネ・リーブル神戸
8/16(土)〜 京都:京都シネマ
ほか、全国順次公開予定

2008年7月21日号掲載 このエントリーをはてなブックマーク
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