古今漫画夢現-text/マツモト

こなみかなた『チーズスイートホーム』

もう、文句なしにかわいい。大好きだ。
読むたびにかわいさのあまり悶えている。

猫が大好きだ。もこもこした毛並み、むくむくした肉感、眠たそうな顔、甘ったるい鳴き声…。小さい頃からわが家には猫がいた。四本足を折り曲げて丸くなっているのを見ては、猫のお腹に顔をうずめていた。一緒に遊んでは、となりあって眠っていた。ポールの上に器用に座るその後ろ姿を見ているのが好きだった。もう20年近く前の話だ。家から離れての生活が始まってからは、猫たちと関わるのも少なくなっていった。それに、改めて猫を飼いたいかと聞かれても、答えは決まっている。ノーだ。自分一人の面倒を見るのも大変だというのに、猫を飼うなんて考えられない。それに、自分よりも生の短い生き物をいずれ失うことになるのも、いやだ。

なんだかナイーブで湿っぽい話になってしまった。それでも猫が好きなことには変わりない。猫を見かけると思わず目が留まる。近寄って、「こんにちは」と言いたくなる。現実ではそれくらいのことしかできないので、猫が載っている作品には一も二もなく飛びついている。最近のぼくの中でのヒットは、こなみかなたの「チーズスイートホーム」だ。最近はアニメにもなって人気が高い。

「チーズスイートホーム」は、親猫とはぐれた子猫が山田家に拾われ、チーと名付けられて共に生活していく姿を描いた物語だ。少年ヨウヘイと一緒に成長していく様子がほほえましい。何事もない日々のなかで、無邪気で天真爛漫なチーが色々な表情を見せ、動きまわっている。お気に入りの場所を見つけて“ここチーのらよー”と得意満面に鳴いてみせる。もう、文句なしにかわいい。大好きだ。正直に言って、読むたびにかわいさのあまり悶えている。猫独特の柔らかさも、チーの住む世界への愛も描線にあふれているのだ。作者はほんとうに猫が好きなのだろう。読んでいて幸せになるとはこのことだ。

また、本作は特に大きなストーリーがなくほぼ一話完結になっているのもありがたい。特に気負うことなく、手に取って読むことができる。どこから読んでも、かわいらしいチーがいる。特に疲れて帰ってきた日に読んでいて、あれ、何か涙が出てきた…なんてこともあったものだ。

さて、本作も2004年から始まって5年目になる。チーは少しずつ、成長している。最近は人間の子どもの成長を見ているような気分で読んでいる。改めて1巻から読み直していると、それはけっこう強く感じられるのだ。初めはチーの表情もいつも可愛らしいというわけではなかった。むしろ、猫の猫らしさ、つまり細長い瞳での三白眼や細長い紐に飛びつく姿などはワイルドで、文字通り猫の成長を思わせるシーンが多かった。それが、山田一家との生活に馴染んでくると、チーはどんどん人間のようになっていく。ヨウヘイとは仲良し兄妹のように遊んでいるし、一緒に食卓を囲んで喜んでいる。まるで猫の姿をした人間の子のようだ。本能のまま動くことはあっても、たぶんチー自身は自分のことを人間だと思っているに違いない。

一方でこれは、作者自身の表現やテーマが変わってきたから、とも言えるかもしれない。表現方法が定まってきたこともあり、時折以前見たことのある場面が定番、ではないが、たまに見られる。おそらく、いわゆる「かわいさ」を追求すれば、しぜん人間らしさが滲んでくることもあるだろう。そうすれば、“猫”を描くことから、“猫の子ども”あるいは“子ども”を描く方向へと変わることもあるだろう。

それでもチーがかわいければ、ぼくは当面それだけで満足だ。正直、チーにメロメロである。

2009年5月11日号掲載 このエントリーをはてなブックマーク

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こなみかなた『チーズスイートホーム』(モーニングKCDX) volume1 home made2
初期は、あまりかわいくないような気がする。汚れた顔で、泣きべそかいてよだれたらして…けなげなんだなあ。やっぱりかわいいのだけど。

同 volume3 home made54
黒猫と別れた夜のチー。一番感動した場面である。たぶん、人間の子どもの成長にもあることだろう。
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