古今漫画夢現-text/マツモト

鮒 寿司『胎界主』

神話やオカルトとリンクする現実。
想像を形にして、読むに堪え得るものにするのは
至難の業である。

小説やマンガといった創作系の読み物を作るとき、その作品の世界観を自分で一からこさえるというのは本当に大変な作業だ。ぼくも少し試みたことがあるが、自分の行動力のなさと収集能力のなさに絶望して匙を投げたことがある。それを、腰を据えてやろうとしているこの作者はすごい。しかも、読者に世界観を理解してもらう必要も作者は自覚しているようだし、まあこんな大変なことをよくやるものだと、半ばあきれながらも何とかしてこの世界観を読み取ろうと躍起になっているぶん、ぼくも相当この作品に入れ込んでしまっているのである。

本作の舞台は鮒界市という区域であるが、その中では人間の他にも、悪魔、半妖精といった架空の存在が跋扈している。この文章を書いている今でもよく分かっていないのだけど、簡単に言えば、“胎界”という世界にいる魔王たちの派閥争いに、現実世界の“生成世界”に住んでいる半妖精の主人公が巻き込まれる、という話だ。半妖精と魔王の間にもさまざまなヒエラルキーがあるらしく、なぜ人間世界に住む一介の半妖精がそんな派閥争いに巻き込まれなければならないのか。それは、彼・凡蔵稀男にはこの世のものである“胎界物”を創造する能力があり、しかもこの世界=胎界をも作り出す真の胎界主の可能性があると目されているかららしい。全然簡単に説明できていないのだけど、ここあたりは自分の眼で、じっくりと確認してほしい。何にせよ、パパッと読んだだけではよく分からないのだ。最近では、胎界主@wikiというサイトもあるので、こちらもご覧になればより正確に理解できるかと思う。

神話やオカルトの世界と現実がリンクする…こういった物語は多い。中学生のとき熱狂していたのはラヴクラフトの「クトゥルフ神話」だったが、今いる世界が見かけだけのもので、一皮剥けば想像を絶する姿を現すと考えるだけでゾクゾクしてくる。こういう感覚には何歳になっても惹かれるものだ。しかし、そんな想像を形にして、読むに堪え得るものにするというのは至難の業である。大切に温めてきた想像を他の人の目にさらすということは、批判を甘んじて受けるということでもある。一般受けするかどうか、その一点はとても大きく、商業誌で壮大な物語を描きだすことの難しさにもつながってくるのだろう。本作品『胎界主』は個人のネットでの掲載作品で、それこそ作者も自分の思うままに描けることと思う。しかし、皆さんはご存じだろうか。エヴァンゲリオンが流行り始めた頃、ドラえもんとエヴァンゲリオンの世界をミックスしたネット小説『ドラエヴァ』があったことを。この作者もじっくりと話を練りこむ方だったが、掲載が重なるごとにその間隔は長くなり、ついには未刊としてサイト自体を閉じてしまったのだ。とても残念だった。

『胎界主』も壮大な物語を紡ぎだすため、作者自身あと何年かかるか…とぼやいているくらいだが、何とか三部構成のうち第一部を完結させることが出来た。それだけでも大変なことだとは思うし、十分に面白い内容となっている。現在は少しずつではあるが第二部を手掛けている。一読者としてはぜひとも、何年かかってもいいからこの作品を完成させてほしいと願うばかりである。

2009年6月22日号掲載 このエントリーをはてなブックマーク

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