スーが出ていったあとで、カフェイン中毒病棟、という絵を画いた。片腕で顔を庇い、その腕の向こうに涙と顔が透けている絵だ。『ひとつ一夜の恋情け、ふたつ不埒な女陰の疼き、みっつ淫らな地蔵の躯、よっつ弱った羽虫の交尾、いつついつものいけない手癖、むっつむなしい独り上手、ななつなつかし男の匂い。やっつやっぱりこの世は生き地獄、ここのつ滑稽昔年の恋、とおでとうとう砕け梯子。』

 その絵は、賞を取った。カフィの代表作になった。カイエの絵は、カフィ・ブルーと称されるようになった。賞を取った晩、カイエはパレットをきれいに洗って青色をぜんぶ落とした。

「メェ。カイエは死ぬべきだとおもう。」

「僕もだ、ブランカ。」

 ブラウンが応える。

「でも、最期の一枚が残っているね。」

 カイエが応じた。

「ツェザーレ氏のヌードだ。」

 コフィは、カイエのヌードを遺した。彼の、唯一のオリヂナル作品だ。

「僕も、画かなきゃ不可ない。最高に美しく画いてあげるよ、コフィ。」

 カイエは、赤と黄色と白を絵の具チューブから搾り出した。

 もう、デッサンは済んでいる。コフィのヌードだ。ツェザーレ氏の作風で画く。甘く、やさしく、コフィは妖精の少女になる。 コフィのヌードが完成した晩、カイエはミシン針を飲んだ。血流を巡って、僕の心臓を刺せ。僕の記憶は尽きた。死ぬべき日がやってきたのだ。カイエは、ベッドに入ると、静かに眼を閉じた。ミシン針が心臓に達するという、確信があった。

 その後、小さな葬儀があった。カフィは、カフィ・ブルーの名と共に、消えた。Kの署名の絵の値段は高騰し、信じられないような値がついた。それから、最後のツェザーレ氏のヌード画が発見された。署名がなかったため、売られずに、画商の画廊に飾られた。

「で、結局、Kやらカフィやら、コフィやらっていうのは、同じ人間なのか?」

 画商はスーに尋ねた。

「カイエという画家も混ざっているわ。」

「カイエにもっと画かせろ。」

「カイエも死んだの。」

 とんでもない大金を手にしたスーは、大陸へ向かった。そのあとの彼女のことは誰も知らない。ただ、二十一個の惑星と、散歩地図が、マンションの管理人によって、ミュルとしてダストシュートに投げ込まれたのは、確かだった。

2009年5月18日号掲載

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shair「ツィザーレ氏のヌード」に寄せて

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