銀幕ナビゲーション-喜多匡希

桃まつりpresents kiss!

【“若き女性監督たちが織り成す軽やかな奮戦
〜ほろ苦スイートな9つのkiss〜” 】 あとで読む

桃まつりって何?

 タイトルに冠されている“桃まつり”とは、2007年に映画美学校第2期2000年卒業生有志5名(大野敦子、木村有理子、笹田留美、竹本直美、深 雪)によって結成された“桃祭”が前身である。2007年3月4日に映画美学校で上映会“桃祭”を開催した。

 その後、新たなメンバーを加え、「女性監督にもっと上映の場を!」を旗印とした女性映画監督集団&上映組織“桃まつり”となった。『桃まつりpresents』というのは、作品タイトルというよりも、文字通りに“桃まつり提供”という意味合いが強い。

“桃まつり”メンバーの中には、映画界に深い関わりを持つ者もいたが、派遣社員や飲食店従業員、主婦など、全く別の顔を持つ者も少なくなかったが、映画への情熱を支えとして製作は順調に進んだ。その結果、2007年の“桃祭”で発表した5作品のほか、2008年には新たに7作品を完成。結果的に、10人の女性監督による12本の短編映画が完成した。タイトルも『桃まつりpresents 真夜中の宴』というタイトルに決まり、12作品を <壱の宴>(3作品)、<弐の宴>(5作品)、<参の宴>(4作品)に分けて公開された。

 初公開となったのは、東京・渋谷のユーロスペース。2週間レイトショー公開だが、その形態はすこぶる変則的であった。それなのにも関わらず、2週間で1,000人を超える動員を記録したという。明らかな“桃まつり”は、製作だけでなく、配給・宣伝も自分たちが中心となって行っている。同じ組織として一丸となって宣伝にあたることもあれば。個人単位で動くこともある。このフレキシブルな対応が効を奏し、良き宣伝となったのであろう。続けて5月に大阪、7月に名古屋で劇場公開した後、10月の第6回京都映画祭でも招待作品として上映。今年1月には高知公開も成された。

『桃まつりpresents kiss!』は
シリーズ第2弾

“桃まつり”のシリーズ第1弾『桃まつりpresents 真夜中の宴』では、女性映画監督10名で12作品だったが、シリーズ第2弾の『桃まつりpresents kiss!』では、女性映画監督9名で9作品。きっかり1人1作品となった。また、今回参加した9名の内、前作からの続投は『地蔵ノ辻』(<参のkiss!> 第1話)の竹本直美のみ。彼女は“桃祭”創設からのメンバーであり、『桃まつりpresents 真夜中の宴』のために1本監督しているから、『地蔵ノ辻』が“桃まつり”3作目となる。これは唯一の皆勤監督&最多監督本数だ。他の8名は“桃まつり”初登板である。

『桃まつりpresents kiss!』は、タイトルの通り“kiss”をテーマにした全9編から成る短編集。1プログラムにつき各3話収録となっている。オムニバスの醍醐味は、『ユメ十夜』や『R246 STORY』の回でもお伝えしてきたように、乗合馬車という語源からもわかるように、一本の中に様々なタイプの作品が複数収められているという混在の面白さに尽きる。万華鏡のように様々な作品が飛び出し、その中から各人の嗜好にあった作品に出会う。宝探しゲームと同種のワクワク感がたまらない。中には、単体なら観賞することの無かったであろうタイプの作品もある。そして、なんとなくお付き合い感覚で目にした作品にグッと引き込まれ、「おっ! 面白いじゃん!!」と、意外かつ新鮮な喜びが湧き上がって来るとめっけもの。新たな興味の芽生えが好奇心を刺激し、更なる探求・開拓の旅に誘ってくれることだろう。

『桃まつりpresents kiss!』も、バラエティに富んだ作品が揃っている。9作品がそれぞれの輝きを放っており、飽きることが無い。中でも、筆者のイチオシは俊英・瀬田なつきによる『あとのまつり』。山崎都世子の『たまゆら』も才能漲る快作である。関東出身勢が大半を占める中にあって、関西出身の才媛2名が気を吐いていることが、同じ関西出身者として頼もしい。ほか、ドイツ・フランクフルト映画再に出品となった矢部真弓による『月夜のバニー』も注目の1本。“桃まつり”立ち上げから参加している竹本直美の『地蔵ノ辻』も、安定した演出力のみに頼ることなく、前を見据える意志が伝わってくる。

 2000年代に入り、20、30代の若き女性監督たちが注目され始めた。その中で、“桃まつり”という企画が誕生したことは必然とも言える。この才能の源泉ともいえる企画は今後も継続して欲しいものだ。しかし、“継続は力なり”の言葉通り、いかなる企画も、単発ではなく連綿と継続していくことは決して簡単なことではない。そのためには、作品を供給する側だけでなく、受け手である我々映画ファンによるサポートが不可欠である。“桃まつり”は大いなる可能性を感じさせる有意義な試みだ。今後の継続と発展のためにも、微力ながらサポートしたく、今回御紹介した次第である。

『桃まつりpresents kiss!』
大阪公開記念!!
特別上映作品目白押しっ!!

5/30(土)17:00〜
『アンナの物語』&『さらば、愛しき女よ』上映!

 『アンナの物語』     (2008 監督・脚本:山田咲 HD 68分)
   出演:桃生亜希子、螢雪次朗、吉岡睦雄、木村翠、
   
   田村泰二郎 ほか
 『さらば、愛しき女よ』  (2006 監督:長島良江 10分)

5/31(日)17:00〜 
短編集(4作品)上映!

 ◆短編集(4作品 合計88分)
 『犬情』         (2002 監督:粟津慶子      18分)
 『とどまるか なくなるか』(2006 監督:瀬田なつき    36分)
 『パンとキリスト』    (1995-2008 監督:山崎都世子 24分)
 『サドンチョイス』    (2005 監督:篠原悦子     10分)

 

桃まつりpresents kiss!  http://www.momomatsuri.com/

2009年 日本 配給:桃まつり

[全3プログラム](全9作品)
<壱のkiss!>(86分)
1.『たまゆら』    (監督:山崎都世子 出演:阿久根裕子、安藤匡史  22分)
2.『収穫』      (監督:粟津慶子  出演:麻生絵里子、波多野桃子 26分)
3.『タッチ ミー』   (監督:山田咲    出演:KaoRi、関口晃 38分)

<弐のkiss!>(78分)
1.『マコの敵』    (監督:篠原悦子  出演:中込佐知子、野村恵里  30分)
2.『月夜のバニー』  (監督:矢部真弓  出演:中村織央、武藤宏明   30分)
3.『あとのまつり』  (監督:瀬田なつき 出演:中山絵梨奈、福田佑亮  18分)

<参のkiss!>(69分)
1.『地蔵ノ辻』    (監督:竹本直美  出演:斉藤陽一郎、河井青葉  15分)
2.『それを何と呼ぶ?』(監督:長島良江  出演:西山朱子、西田薫    29分)
3.『クシコスポスト』 (監督:別府裕美子 出演:河村満里愛、岡部尚   25分)

【上映スケジュール】 
5/23(土)〜6/5(金) 大阪・中崎町:PLANET+1にて2週間レイトショー公開 http://www.planetplusone.com/

(通常上映タイムテーブル)
  5/23(土)・5/26(火)・5/29(金)・6/1(月)・6/4(木)
   →19:30〜 <壱のkiss!> 21:00〜 <弐のkiss!>を上映
  5/24(日)・5/27(水)・5/30(土)・6/2(火)・6/5(金)
   →19:30〜 <参のkiss!> 21:00〜 <壱のkiss!>を上映
  5/25(月)・5/28(木)・5/31(日)・6/3(月)
   →19:30〜 <弐のkiss!> 21:00〜 <参のkiss!>を上映
2009年5月25日号掲載 このエントリーをはてなブックマーク

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